カンナビス濃縮物には、プロパンやブタンなどの可燃性が高い炭化水素が残留しています。これらの成分は、消費者にとって重大な安全上の懸念となります。揮発性が高いガスのラボ分析では、分析用標準溶液の安定性と保管方法が大きな課題です。これらの揮発性化合物を適切に保管しない場合、分析対象成分が大きく損失し、正確な定量が困難になります。
以下に記載した各種ガイドラインは、揮発性標準溶液の保存期間を延ばすために役立ちます。ただし、保存期間は使用方法によって変動するため、使用前に必ずラボ内で確認してください。
残留溶媒ガス標準品に関するガイドライン概要|劣化を防ぐための基本手順
- アンプルを低温(0 °C以下)で保管し、使用前に室温まで戻さないようにします。使用前にはアンプルを緩やかに上下反転させ、液体をアンプル底部に集めます。
- できるだけ多くの量を一度で二次容器に移し替え、その後は別の容器へ再度移し替えないようにします。
- Mininert Precision サンプリングバルブ付きのマイクロバイアル(3 mL、cat.#: 21051、24903)を使用し、0 °C以下で保管することで、分析対象成分の損失を抑えます。
1,2,4-トリメチルベンゼンを溶媒に選ぶ理由|揮発性分析対象成分の安定性を高める特性
揮発性ガス標準品の安定性を左右する最も重要な要素は、溶媒の選択です。Restekの残留溶媒ガス混合標準品(cat.# 36024)では、1,2,4-トリメチルベンゼン(TMB)を溶媒として採用しています。採用理由は次の4点です。
- 非極性であるため、プロパンやブタンなどの脂肪族分析対象成分の溶解性が高まります。
- 融点が低く(-44 °C)、DMSOやベンゼンとは異なり、通常のラボ用冷凍庫で凍結せずに保管できます。
- 粘度が比較的低いため、低温下でも扱いやすくなります。
- 沸点が高く(169 °C)、他の目的化合物との分離が可能です。
さらに、輸送時の安定性を高めるため、アンプルはヘッドスペースを最小限に抑えて充填されています。密封したアンプルを用いた強制振とう試験では、最も揮発性の高い分析対象成分においても良好な保持挙動が確認されました。この結果から、輸送中も分析対象成分の品質が保たれていることがわかります(Figure 1 )。
Figure 1: 溶媒に1,2,4-トリメチルベンゼンを用いることで、強制振とう試験においてすべての残留溶媒ガスで良好な保持挙動が確認された。結果は、振とうを行わない場合の測定値を基準に規格化した。
取り扱いガイドライン|試験方法の概要
試験の基本条件
すべての試験において、標準溶液は-20 °Cで保管し、装置の安定性を確認するため、未開封のアンプルを毎日新たに確認用試料として試験しました。アンプルは開封前に緩やかに2回上下反転させています。試験では、20 mLのヘッドスペースバイアルに標準溶液10 µLと内部標準物質5 µL(トリフルオロトルエンのメタノール溶液、10,000 ppm)を添加しました。特に断りがない限り、各測定はn=3で実施しました。
アンプルの保管温度が回収率を左右する
標準溶液は低温(0 °C以下)で取り扱い、使用前に室温まで温めないようにします。アンプルを25 °Cまで温めた場合、低温のアンプルを対照とした回収率と比較して22〜30%の損失が確認されました。50 °Cまで温めた場合は、28〜32%の損失が確認されました(Table I)。
Table I: 温度が上昇するほど、対照と比較して回収率の低下が大きくなる。
| 確認用試料との回収率比較(%) | ||
| 25 °C | 50 °C | |
| プロパン | 70.75 | 68.12 |
| イソブタン | 75.60 | 70.53 |
| ブタン | 77.04 | 71.54 |
| ネオペンタン | 78.24 | 72.11 |
液体操作と二次容器への移し替え|操作方法による回収率の違い
標準溶液の取り扱いでは、アンプルから二次容器へ移し替える際に、分析対象成分の顕著な損失が確認されました。液体操作技術による違いを検証するため、新しいアンプルを用いて次の3種類の技術を比較しました。
- エア式マイクロピペット
- ポジティブディスプレイスメント式マイクロピペット
- 気密シリンジ
さらに、二次容器への移し替えによる影響を確認するため、それぞれの液体操作技術で得た標準溶液500 µLを二次容器へ移し替えて再試験しました(移し替え1回目)。続いて、その二次容器中の標準溶液200 µLを別の二次容器へ移し替えて再試験しました(移し替え2回目)。最後に、標準溶液100 µLをさらに別の二次容器へ移し替えて再試験しました(移し替え3回目)。
比較のため、ガラス製パスツールピペットによる移し替えも実施しました。初回の移し替え量は約1 mLとし、目盛りを用いて移し替え量を近似しました。試験用のアリコートは、気密シリンジを用いて採取しました(Figure 2 )。
Figure 2: 各液体操作技術の比較。ガラス製パスツールピペットが、3回すべての移し替えにおいて最も良好な結果を示した。
移し替えを行わない場合、いずれの液体操作技術でも各分析対象成分の面積値はほぼ同等でした。一方、1回移し替えただけでも、いずれの技術でも分析対象成分の損失が確認され、その程度は技術間で非常に近い結果でした。最も良好な結果が得られたのは、初回の移し替え量を多くしたガラス製パスツールピペットでした。各技術の結果が近いことから、移し替えの技術そのものよりも、移し替える量が回収率を左右する主な要因と考えられます。
二次容器での保管条件の比較|マイクロバイアルによる揮発損失の抑制
次に、複数の二次容器における保管条件を比較しました。いずれの場合も、ヘッドスペースを最小限に抑えるため二次容器に液体を可能な限り充填し、-20 °Cで保管しました。試験した二次容器は次の4種類です。
- セプタム付き2 mLバイアル
- セプタムなし2 mLバイアル
- Mininert Precision サンプリングバルブ付き1 mLマイクロバイアル(cat.# 24900)
- Mininert Precision サンプリングバルブ付き3 mLマイクロバイアル(cat.# 24903)
Figure 3: Mininert Precision サンプリングバルブ付きの3 mLおよび1 mLマイクロバイアル
2 mLバイアルでは、キャップを外してポジティブディスプレイスメントピペットで採取することでアリコートを試験しました。マイクロバイアルでは、気密シリンジを使用しました。各サンプルは0、7、14、28日目にn=3で試験しました。結果は0日目の測定値を基準に規格化しています(Figure 4)。
Figure 4: プロパンの回収率データ。各保管条件を比較したところ、14日後には3 mLマイクロバイアルで最も高い回収率が得られた。
すべての保管条件において、0日目から14日目にかけて分析対象成分の損失が確認されましたが、14日目から28日目にかけては損失の進行が緩やかになりました。プロパンについては、いずれの2 mLバイアルでも12〜15%の損失が確認されました。一方、マイクロバイアルでは、同期間の損失は2〜8%にとどまりました。分析対象成分の損失はプロパンで最も顕著でしたが、他のガスにも同様の傾向が見られました。揮発性が比較的低いガス(ネオペンタン、イソブタン、ブタン)については、マイクロバイアル使用時に損失は確認されませんでした(Table II)。
Table II: マイクロバイアルは、2 mLオートサンプラーバイアルと比較して高い回収率が得られた。
| セプタムなしバイアル (日数) | プロパン | イソブタン | ブタン | ネオペンタン | 1 mL マイクロバイアル (日数) | プロパン | イソブタン | ブタン | ネオペンタン |
| 0 | 100 | 100 | 100 | 100 | 0 | 100 | 100 | 100 | 100 |
| 7 | 98.08 | 100.56 | 103.09 | 102.06 | 7 | 92.80 | 105.06 | 108.73 | 109.65 |
| 14 | 88.78 | 93.86 | 95.27 | 95.71 | 14 | 92.47 | 112.52 | 117.66 | 120.12 |
| 28 | 88.68 | 94.17 | 95.63 | 95.96 | 28 | 92.24 | 111.52 | 117.46 | 120.86 |
| セプタム付きバイアル (日数) | プロパン | イソブタン | ブタン | ネオペンタン | 3 mL マイクロバイアル (日数) | プロパン | イソブタン | ブタン | ネオペンタン |
| 0 | 100 | 100 | 100 | 100 | 0 | 100 | 100 | 100 | 100 |
| 7 | 95.36 | 92.75 | 92.51 | 91.24 | 7 | 94.78 | 103.98 | 105.90 | 105.90 |
| 14 | 85.52 | 89.03 | 90.19 | 90.67 | 14 | 97.84 | 111.74 | 116.16 | 117.97 |
| 28 | 86.92 | 90.45 | 92.61 | 93.19 | 28 | 98.33 | 112.05 | 117.45 | 119.22 |
なお、2 mLバイアルでは、サブサンプリングのたびにキャップを外す必要がありました。日常的なQCなどでより頻繁にサブサンプリングを行い、キャップを繰り返し外す場合、保存期間はさらに短くなる可能性があります。一方、マイクロバイアルはキャップを外す必要が一切なく、繰り返しサブサンプリングを行っても、より長期間にわたり性能を維持できると考えられます。
まとめ
- アンプルは低温(0 °C以下)で保管し、使用前に室温まで戻さないようにする。
- 二次容器への移し替えは1回にまとめ、再移し替えを避ける。移し替え量が多いほど回収率は高くなる。
- 1,2,4-トリメチルベンゼンを溶媒とすることで、揮発性分析対象成分の溶解性・保管性・分離性が高まる。
- アンプルを室温に近づけるほど回収率は低下する(25 °Cで22〜30%、50 °Cで28〜32%の損失)。
- 二次容器はMininert Precision サンプリングバルブ付きマイクロバイアルを使用することで、2 mLバイアルよりも揮発損失を大幅に抑えられる。
- マイクロバイアルはキャップの開閉が不要なため、繰り返しのサブサンプリングにも適している。
よくある質問
標準溶液の保管・取り扱いに適したツールをお探しの場合は、Reference Standards Finderで該当製品を検索できます。
残留溶媒ガス標準品はなぜ揮発しやすいのですか?
プロパンやブタンなどの残留溶媒ガスは沸点が非常に低いため、室温や振動・開封操作などの影響を受けやすく、わずかな取り扱いの違いでも分析対象成分が揮発損失しやすい特性があります。
二次容器への移し替えは何回まで行っても問題ありませんか?
移し替えの回数が増えるほど、また1回あたりの移し替え量が少ないほど、分析対象成分の損失は大きくなります。できるだけ1回の移し替えで済ませ、必要以上に別容器へ再移し替えしないことが推奨されます。
2 mLバイアルとマイクロバイアルはどちらを使うべきですか?
短期間の使用であればセプタム付き2 mLバイアルでも対応可能ですが、頻繁なサブサンプリングや長期保管が必要な場合は、キャップの開閉が不要なMininert Precision サンプリングバルブ付きマイクロバイアルの使用が推奨されます。


