最終更新日:2025年10月10日
PFAS排ガスと空気サンプル分析の重要性
PFASに関心があるなら、その存在範囲の広さもすでにご存じのことでしょう。水中に多く見られるだけでなく、私たちの衣服にもPFASは使用されています。そして今や空気サンプルを扱うラボにおいても、PFASの存在は大きくなっています。実験用器具にバックグラウンド汚染があるというだけではありません。2021年1月にPFAS化合物含有排ガスの採取と分析に関するメソッド「OTM-45」をEPAが公表したように、排ガスなどの空気サンプルそのものがPFAS分析の対象となっています。
https://www.epa.gov/sites/default/files/2021-01/documents/otm_45_semivolatile_pfas_1-13-21.pdf
EPAが発表したOTM-45 とは?ドラフトメソッドの概要
OTM(Other Test Methods:その他試験方法)についてまず説明しましょう。OTMとは連邦規則制定プロセスを経ていない試験方法のことです。EPAの以下の表明からも分かるように、現状でドラフト版であるOTM-45を最終版として確定するために、固定発生源からのPFAS分析を行うラボにおける試用とその結果のフィードバックは必須です。
「OTM-45はドラフトメソッドであり、現場や研究機関などから測定データやフィードバックがあると更新されるという柔軟性を持ちます。これに伴い、EPAによる都度の評価が必要となりますが、メソッドの一貫性を保つことも喫緊に必要だと考えています。そこで、一貫性確保を意図して、EPA排出測定センターは『Other Test Method(OTM)』を公開し、これを固定発生源から排出されるターゲットPFASを採取・分析する最新のベストプラクティスと位置付けました。大気排出源からのPFASに関する参照法策定のために、本メソッドを適用して得られたフィードバックやコメント、追加データを幅広く募集しています。」
OTM-45で得られる4種類のサンプル画分と抽出法
では、OTM-45は具体的にどのような内容でしょうか。サンプル採取方法については、SW-846 0010に慣れている方なら、試料採取系(Sample Train:サンプルトレイン)がよく似ていることに気づくはずです(Fig. 1参照)。試料採取系の各セクションでは以下のような抽出処理が行われ、最終的には4つのサンプルが得られます。
ブレイクスルー確認用のXAD-2(ピンクのセクション)は単独で振とう抽出
前半リンス液とフィルター(赤と黄のセクション)は組み合わされて振とう抽出(溶媒で洗い出す簡単な抽出法)
後半リンス液と最初のXAD-2吸着剤(緑と青のセクション)も組み合わされて振とう抽出
凝縮水、インピンジャ内の水、インピンジャリンス液(紫とグレーのセクション)も組み合わされて、EPA method 533同様のWAX SPE(弱アニオン交換固相抽出)で抽出

Fig. 1 – OTM-45試料採取系
LC-MS/MS分析と同位体希釈校正の適用
抽出後、各サンプルは、EPA Method 533同様の同位体希釈による校正を用いてLC-MS/MSで分析されますが、対象となる化合物の種類はEPA Method 533よりもはるかに多くなります。実在確認されたPFAS化合物に関するデータが限定的なため、EPAは可能な限り広範なPFASをカバーするというアプローチを採用しています。結果として、対象化合物や抽出前後に用いる内部標準物質(安定同位体のアナログ)の数は多くなります。そのため、OTM-45に基づいたサンプル分析は、単に既存のEPA Method 533に基づくLC-MS/MS分析を実行するだけでよい、ということにはならないのです。
このブログは「第1回」です。ご想像の通り、OTM-45についてはLC-MS/MS分析、校正、サンプル前処理、バックグラウンドと清浄度の問題といった内容を全5回のブログシリーズで詳しく解説していく予定です。
<第2回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 クロマトグラフィに基づいた最適化
<第3回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 校正
<第4回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 レジン洗浄
<第5回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 レジン抽出

