アルコール飲料の揮発性成分とGC分析の重要性
アルコール飲料に含まれる揮発性成分のプロファイルは、酸類、アルコール類、アルデヒド類、そして微量ながら香りや味わいに大きく影響するその他のフレーバー化合物など、多様な成分から構成されています。蒸留酒、ワイン、ビールの官能評価に精通した専門家は、同じ製品が二つとして存在しないとよく指摘します。これは、それぞれの飲料に含まれる揮発性成分のわずかな差異が、個々の独自性を生み出しているためです。
これらの違いを理解するには、官能評価に加えて、機器分析による定性的・定量的評価が不可欠です。品質保証(QA)の担当者は、両者を組み合わせることで、製品の特性についてより包括的な情報を得ることができます。
ガスクロマトグラフィー(GC)はアルコール飲料の分析において非常に強力なツールですが、同時に扱いやすい分析手法でもあります。理由は以下の通りです。本記事では、こうしたGCの特性を踏まえ、アルコール飲料中に含まれる揮発性成分をどのようにモニタリングできるかについて、その分析手法と応用例を詳しく解説します。
- サンプル前処理がほとんど不要: アルコールまたはアルコール/水混合液をマトリックスとして、そのまま液体の状態で分析可能
- フレーバー成分は揮発性が高い:GC分析に適しており、大きな利点
- 一般的な検出器(水素炎イオン化検出器、FID)から、より情報量の多い質量選択性検出器(MSD)まで利用可能
- 自動化が容易で、QA/品質管理(QC)の現場で特に有用
アルコール飲料中のアルコールおよびアルデヒドの分析
アルコール飲料には、アルコール類や短鎖アルデヒドをはじめとする多様な揮発性化合物が含まれています。GCは、これらの化合物を、サンプル抽出を行わずに直接分析できる点で非常に有効です。AOAC Internationalでも、フーゼルアルコール(フーゼル油とも呼ばれる)、メタノール、エタノール、さらには高次アルコールの分析法がGCを用いた手法として公表されています[1]。
キャピラリーカラムは高い分離効率を備えており、特に構造が類似したフーゼルアルコール類の分析に適しています。しかし、幅広いアルコールについて良好なピーク形状と適切な分離を得るためには、分析対象に合った選択性をもつ固定相を選ぶことが重要です。主要フーゼルアルコールである 2-メチル-1-ブタノール(イソアミルアルコール)と 3-メチル-1-ブタノール(活性アミルアルコール)の分離は、正確な分析のために必須のポイントです。
また、アルコール飲料は水とエタノールを主体とするため、水、アセトアルデヒド、メタノール、エタノールといった成分をしっかりと分離する必要があります。これらが共溶出すると、ベースラインの乱れや微量成分のピークが主要ピークに埋もれることで、正確な定量が難しくなります。加えて、酢酸は固定相との相性によってピーク形状が乱れやすく、分析上の注意点として考慮する必要があります。
| Tech Tip(技術的なヒント) エタノールサンプルを扱う際は、シリンジの寿命を最大限に延ばすために、気密性の高いガスシリンジを使用してください。 |
適切な選択性を持つGCカラムの選択
アルコール飲料のGC分析に最適なカラムを選定するため、極性の異なる3種類の固定相が比較評価されました。
- Rtx-VMS(溶媒および揮発性化合物に対する独自の極性)
- Rtx-502.2(低極性)
- Rtx-1301(中極性)
評価にあたっては、ピーク形状の良否と主要ターゲット化合物の分離度を主要な評価指標としました。まず、アルコール飲料分析で一般的にテストされるターゲット化合物を含む標準試料をエタノール中 100 µg/mLで調製し、初期スクリーニングをFIDで行いました。その後、フルスキャン法(10–400 m/z)を用いてMSD分析を実施し、水が十分に分離されていることを確認しました。
いずれの固定相も、水、アセトアルデヒド、メタノール、エタノールについては良好な分離を示しました。Figure 1のRtx-1301カラムによるクロマトグラムは、これら化合物の典型的な分離例を示しています。
| ご存知でしたか ? フーゼルアルコールは高次(すなわち二級または三級)アルコールであり、ビールには通常微量含まれています。フーゼルアルコールは、エタノールと類似の生成経路を経て生成され、辛味やスパイシーさ、溶媒臭のような風味、いわゆるアルコールの「刺激感」をもたらします。ストロングエールやバーレイワインなど、スタイルによっては少量なら好ましい風味となりますが、ピルスナーなどのラガーでは不快な味につながることがあります。さらに、フーゼルアルコールは酵母にとっては有害であるため、ボトルコンディションのビールでは炭酸保持性や泡の保持力の低下を招くこともあります。発酵温度が高いと、酵母の成長が過剰に早まり、突然変異が起こりやすくなるため、フーゼルアルコールの生成が促進されます。 |
![]() |
固定相の詳細検討では、以下のような結果が得られました。
- Rtx-VMS カラムフォーマット:30 m×0.25 mm ID×1.40 µm(cat.# 19915):水、アセトアルデヒド、メタノールの分離は良好(Rtx-1301カラムと同様)でしたが、重要なフーゼルアルコールである2-メチル-1-ブタノール (イソアミルアルコール)と3-メチル-1-ブタノール(活性アミルアルコール)(Figure 2参照)は分離できませんでした。オーブン温度を 35℃ で等温保持しても、これらのアミルアルコールは、カラム寸法に関係なく共溶出が改善されませんでした。
- Rtx-502.2 カラムフォーマット:60 m × 0.25 mm ID × 1.40 µm、(cat.# 10916):ターゲット化合物に関しては優れた分離を示し、分析時間も許容範囲でした。ただし、酢酸のピーク形状にフロンティングが見られ、低極性固定相による溶解性の低さが示唆されました(Figure 3参照)。
- Rtx-1301 カラムフォーマット:60 m × 0.25 mm ID × 1.00 µm、(cat.# 16056):最もバランスの良い結果を示したのがRtx-1301で、特にクリティカルペアの分離とピーク形状が優れていました。特筆すべきは、Rtx-VMSでは共溶出していた2-メチル-1-ブタノーと3-メチル-1-ブタノールが良好に分離されている点です。さらに低極性のRtx-502.2(フェニルメチル型ポリシロキサン相)と比較して、極性の高いシアノプロピルフェニル型固定相を持つこのカラムでは、酢酸のピーク形状も大幅に改善されました(Figure 4参照)。これは、酢酸がRtx-1301相と親和性が高く、より溶解しやすいためです。このように、Rtx-1301カラムは20分未満の分析時間でありながら、全体的に優れた分離を示し、アルコール飲料のGC分析における推奨カラムと言えるでしょう。
アルコール飲料サンプルの分析
ターゲットとするアルコール飲料成分に対するRtx-1301カラムの性能を確認するため、実際のアルコールサンプルを用いて分析を行いました。まずGC-FIDでメソッドを構築し、その後GC-MSに移行してデータを取得しました。メソッド移行にはRestekのEZGC Method Translatorを使用したため、MS条件が数秒で作成できました。最終的な調整は、イソブタノールと酢酸が十分に分離されるよう、温度プログラムの最適化のみで終了しました。Figure 5とFigure 6に示すライウイスキーの分析では、GC-FIDとGC-MSのどちらにおいても、イソブタノールと酢酸、さらに2-メチル-1-ブタノールと3-メチル-1-ブタノールの良好な分離が得られました。酢酸のピーク形状も良好であり、分析時間は15 分未満でした。
添加物の分析
また、蒸留酒の分析では、未記載の添加物に遭遇することが珍しくありません。多くのスピリッツでは、ラベルに表示されていない成分が最大2%程度含まれる可能性があり、実際にプロピレングリコールやグリセリンなどが添加される場合があります。例えば、ラム酒では熟成品に近い丸みのある口当たりを得るためにプロピレングリコールが用いられることがあり、グリセリンはまろやかで滑らかな飲み口を与える目的で添加されることがあります。Figure 7 〜 Figure 11に示される実際のアルコールサンプルの分析結果でも、こうした化合物(添加物)が検出されました。Rtx-1301カラムは、クリティカルペアである揮発性成分の分離、酢酸のピーク形状、分析時間の点で優れた結果を示しており、アルコール飲料のGC 分析において高い信頼性と汎用性を備えたカラムであることが改めて確認されました。
著者紹介
![]() | Corby Hilliard As an advanced scientist in Restek’s GC lab with over 20 years of experience, Corby’s focus is on generating methodology and application data predominately for the food, petrochemical, and environmental industries. He is also involved with R&D and new product development. |
![]() | Carolyn King Carolyn is currently a technical service specialist at Restek. She began her career in 2012 in the QC lab conducting testing to ensure product quality before joining the technical service group in 2015. Carolyn holds a BS in animal sciences and nutritional sciences from The Pennsylvania State University. |
参照文献
- AOAC International, AOAC Official methods of analysis, 22nd edition, Edited by George W. Latimer, Jr., 3 vols., Oxford University Press, Oxford, UK, 2023.















