食品検査ラボは、あらゆる方向からのプレッシャーにさらされています。規制当局は最大残留基準値(MRL)を厳格化しており、塩素系溶媒の使用禁止によって前処理のワークフローも見直しを迫られています。さらに、農薬分析対象リストは700成分を超える規模に拡大しました。その一方で、納期は日単位ではなく時間単位で求められるようになっています。
もはや問題は、GC-MS/MSで微量の農薬を検出できるかどうかではありません。最新のトリプル四重極型装置により、この課題はすでに解決済みといえます。真の課題は、GCカラムと注入口部材が、極めて夾雑物の多い食品マトリックスを対象とした数千回の注入に耐えられるかどうかにあります。
今回の対談では、Restek の Ramkumar Dhandapani(クロマトグラフィー分野で23年以上の経験を持つ分析化学博士、プロダクトマネジメント部門ディレクター)が、ドイツの Eurofins 社ラボに所属する Dr. Alexander Zahm 氏および Laura Schütz 氏とともに、食品安全性試験を取り巻く変化と現在の課題について語り合いました。
ゲストエキスパート紹介|Eurofins Dr. Specht Express Testing & Inspection GmbH

ラボ運営とベンチワーク、二つの視点
本日は、残留農薬分析に関する知見を共有していただき、ありがとうございます。まず、御社のラボと業務内容について教えていただけますか。
もちろんです。私はドイツの Eurofins Dr. Specht で Managing Director を務めています。当社は、複数残留農薬の一斉分析を専門とする、高スループット対応の認定契約試験機関です。夾雑物の多いマトリックスから抽出した QuEChERS 抽出液を、毎週数百件のペースでタイトな納期のなか分析しています。そのため、装置のダウンタイムは許されません。
私は、条件を整えたデモンストレーションだけでなく、実際の現場で機能する技術を求めています。新しい GC カラムを評価する際、常に問われるのは「実際の分析条件下で性能を維持できるか」という点です。
Dr. Zahm がラボ運営の視点を担う一方で、私はベンチワークを担当しています。具体的には、実験の設計と実施、データ解析、そしてそれらが日常の残留農薬分析ワークフローにどのような意味を持つのかを検討する役割です。私の仕事は、GC カラム技術が管理された条件下で示す性能と、実際のラボの厳しい条件下で発揮される性能とのギャップを埋めることにあります。
業界が抱える課題
お二人は食品安全性試験の最前線にいらっしゃいます。現在、残留農薬分析において最も大きな分析上の課題は何でしょうか。
最も根本的な課題は、検出対象の範囲が広いことです。現在の統合残留農薬分析法は、極性化合物、無極性化合物、酸性化合物、塩基性化合物、中性化合物を含む700成分以上を対象とし、これらすべてを1回の分析で測定します。GC分析に限っても、当ラボでは1シーケンスあたり300成分を超える分析対象成分を扱っています。この化合物の多様性は、単一のGCカラムの化学的性質だけでは対応しきれないほど過酷です。
加えて、マトリックス由来の汚染も大きな懸念事項です。汚染によって性能基準を満たせなくなると、メンテナンスのためのダウンタイムが発生し、サンプル分析が完全に停止してしまいます。最新のGC-MS/MS装置では、検出感度はもはや主要な懸念事項ではありません。日常の残留農薬分析で今、本当のボトルネックとなっているのは、マトリックス耐性です。
運用面の課題も付け加えたいと思います。場合によっては、数時間以内での結果報告が求められます。装置のダウンタイムは決して許容されません。そのため、カラムが想定より早く劣化したり、80回の注入後に回収率が許容基準から外れたりすると、単なる科学的な問題では済まなくなります。スケジュール上の危機につながるのです。ピーク形状の悪化や回収率の低下による再分析は、そのたびに貴重な時間を奪います。
大変興味深いですね。マトリックス耐性がなぜこれほど大きな問題となるのか、詳しく伺えますか。最新のGC-MS/MS装置は極めて高い検出感度を備えていますが、どこに問題が生じるのでしょうか。
10〜15年前のシングル四重極型システムでは、10 ppbのLOQに到達すること自体が大きな課題でした。しかし現在のGCトリプル四重極型装置では、検出感度の問題はすでに解決しています。現在の問題は、サンプルバイアルからイオン源に至るまでの経路で何が起こるかにあります。注入のたびに、脂肪酸、色素、リン脂質、糖類などのマトリックス成分が、注入口ライナー、カラムヘッド、そして最終的にはイオン源にまで蓄積していきます。これらのマトリックス成分が蓄積することで、分析対象成分が接触するあらゆる部分の表面化学的性質が変化します。その結果、回収率が変動し、ピーク形状も悪化します。1回目は有効だった検量線も、100回目にはもう使えません。厄介なのは、この劣化がゆっくり進むこと。測定値が許容範囲を外れ、高コストな再分析を迫られて初めて、異変に気づくことも少なくありません。
だからこそ、私たちはRMX-5Sil MSカラムを自ら評価したいと考えました。TriMax不活性化技術を採用した新しいRMXカラムで、マトリックス耐性がどれだけ高まるのかを確かめたかったのです。
私たちの実験で、劣化が最も顕著に現れたのはデルタメトリンやクロルピリホスといった活性の高い化合物でした。同一シーケンス内で6回ライナーを交換しながら、通常使用しているカラムでデルタメトリンの回収率を比較したところ、変動幅は30%を超えました。一方、RMXカラムでは、同じ化合物における回収率の変動幅がはるかに狭く、許容範囲内に収まりました。クロルピリホスについては、通常のカラムでは少なくとも2件の結果がQC基準により再分析を要する水準でしたが、RMXカラムではすべての値が規格内に収まりました。再分析を1件でも回避できることには、大きな時間とコストの節約という意味があります。
実際の分析結果
実験の詳細について、もう少し伺えますか。RMXのGCカラム技術が、実際の分析条件下でどのような性能を示したのか興味があります。
もちろんです。RMX-5Sil MSカラムと通常使用しているカラムを、同一条件下で直接比較しました。GC-MS/MSのトータルイオンクロマトグラムには、その違いがはっきりと表れました。RMXカラムでは、ベースラインがより安定しており、分析が難しい高沸点農薬が溶出する後期保持時間においても、カラムブリードが大幅に低いことが確認されました。
さらに、スミスリンのようにπ結合を含み、活性サイトと相互作用しやすい化合物の場合、通常のカラムではピークがブロードでテーリングを起こしました。一方、RMXカラムでは、ライナーを複数回交換した後でも、同じ化合物でピークが狭くシャープで対称的な形状を維持しました。この一貫性こそが、規制環境下での信頼性の高い定量を可能にします。
実験内容を補足しますと、各カラムについて一連のマトリックスサンプルとQCチェックを実施したのち、注入口ライナーを交換してシーケンスを継続しました。これを6回繰り返しています。カラム性能の変化を検出するため、各ライナー交換後の結果を最初のライナーでの結果と比較しました。この試験設計により、新しい技術を採用したRMX GCカラムがどれだけ頑健かを評価し、通常のカラムと比較することができました。
今回の検討対象は350種類を超える農薬で、分析が難しいことで知られる化合物も含まれています。また、実際のサンプル分析を想定し、コメのような夾雑物の多いマトリックスをあえて選択しました。この条件下で、通常使用しているカラムの寿命は約3か月、注入回数にして約1000回程度であり、80〜90回ごとにカラムトリミングが必要となります。RMXカラムでは1500回の注入まで使用でき、メンテナンス間隔も90〜100回まで延長できました。これはラボの生産性に直結する大きな改善です。
コメを特に難しいマトリックスとして挙げられましたが、何がそれほど難しくしているのでしょうか。
コメは一見単純に見えますが、実際には非常に複雑です。特に玄米には、QuEChERS抽出だけでは完全に除去しきれない脂質、色素、殻由来のマトリックス成分が含まれています。コメの主成分であるデンプンは、アセトニトリルにほとんど溶解しないため抽出液中に残りにくく、この点はむしろ有利です。しかし本当の問題は、実際に抽出される可溶性画分に含まれる炭水化物です。これが注入口の高温下でカラメル化し、ライナーやカラムヘッドにカーボンとして蓄積します。時間が経つと、このカーボンの蓄積によって、分析対象成分が最も影響を受けやすい部位に、新たな活性サイトが形成されてしまいます。この対策として、PSA充填剤による強力なクリーンアップと、ガードカラムを組み込んだカラムシステムの併用が有効です。
私たちの検討では、RMX-5Sil MS with Integra-Guardを使用しました。ガードカラムが分析カラムと同一のチューブ内に一体化されているため、リークが生じやすい手動接続を避けられます。この構成であれば、バリデーション済みの保持時間ウィンドウを崩すことなく、汚染したカラムヘッドをトリミングできます。さらに、TriMax不活性化技術により、従来の不活性化処理では対応しきれない水準まで、マトリックス由来の汚染物質が蓄積するのを抑えられる点も重要です。
技術がもたらす効果
TriMax技術は、従来のカラム不活性化処理と比べて、どのように性能が異なるのでしょうか。
従来の不活性化処理では、GC条件に特化して設計されたものではない、汎用の工業用シリル化剤が使われています。そのため活性シラノール基が露出したまま残り、微量濃度で活性サイトと反応しやすい分析対象成分の吸着を引き起こします。TriMax技術は、Restekが独自に開発した試薬とプロセスであり、GCキャピラリーカラムの不活性化のために一から設計されています。すべてのRMXカラムに採用されており、単なる表面処理にとどまらず、結合・架橋結合・不活性化を同時に進行させることで、シームレスな三次元構造を形成します。その結果、残留物が少なく、露出した反応性サイトのない緻密な表面が得られます。
さらに重要な点として、架橋結合によって固定相の構造的な耐久性も高まります。当ラボでは、数千回の注入にわたって高いマトリックス負荷にさらされても、劣化に対する耐性が確認されています。加えて、RMXカラムは酸性化合物・塩基性化合物・中性化合物のいずれに対しても偏りのない挙動を示すことも確認しています。これは、300成分を超える化学的に多様な農薬を対象とする分析法において、まさに必要とされる特性です。
食品検査では化学的に多様な農薬が対象となるというお話から、メソッド統合についても気になりました。メソッド統合が進む中で、ラボがGCカラム技術に求める条件は、どのように変わってきているのでしょうか。
20年前であれば、有機リン系農薬、有機塩素系農薬、揮発性農薬はそれぞれ別のカラムとメソッドでの分析が一般的でした。各メソッドが、狭い化合物クラスに最適化されていたのです。メソッド統合とは、これらすべてを1本のカラムにまとめ、300種類を超えるGC分析対象農薬を1回のシーケンスで分析することを意味します。抽出も注入も1回で済み、結果も一括して得られるため、効率化のメリットは非常に大きいといえます。
一方で、カラムには、極性化合物、無極性化合物、熱に不安定な化合物など、幅広い性質の化合物を偏りなく扱う性能が求められます。有機塩素系農薬には良好な性能を示しても、有機リン酸エステル系農薬でテーリングを起こすカラムは、統合されたメソッドには適していません。だからこそ、RMXカラムが示す酸性化合物・塩基性化合物・中性化合物間で同等の回収率を得られる偏りのない性能は、現代の食品検査にとって、単に望ましい特性にとどまらず、必須の要件といえます。
実例を挙げますと、当ラボのGC多成分残留農薬分析法は、350〜380種類の農薬を対象としており、非常に幅広い化合物タイプと多くの難分析性化合物を含んでいます。難しいのは、それらすべてを分析すること自体ではなく、難易度の高いマトリックス中で、数百回の注入にわたって、すべての化合物を一貫して定量し続けることです。RMX-5Sil MSカラムがその全範囲にわたって示す性能の安定性こそが、大規模なメソッド統合を実現可能にしています。
先ほど、一体型ガードカラムについて触れていただきましたが、お使いのRMXカラムには一体型のMSトランスファラインも搭載されていると伺いました。このデュアル形式には、どのような利点があるのでしょうか。
GCカラムの構造設計は、カラムの化学的性質と同様に重要です。食品残留農薬分析では、注入口とカラムヘッドが最もマトリックス汚染の影響を受けやすい部位です。Integra-Guard形式は、分析カラムと同一のチューブ内にシームレスに一体化されたガードカラムであり、手動接続は必要なく、デッドボリュームも生じず、リークの懸念もありません。ガードカラムが汚染された場合は、トリミングするだけで済みます。重要な点として、カラムトリミングを行っても、分析対象成分の保持時間ウィンドウは変化しません。つまり、メソッドの再バリデーションも再校正も不要です。1日に数十サンプル、200〜300成分を分析するラボにとって、これは非常に大きな時間の節約につながります。
Integra-transfer lineは、別の課題を解決します。それは、トランスファライン自体からイオン源への漏出、いわゆるブリードです。トランスファラインは300〜310°Cに保たれています。この温度で固定相が存在すると、質量分析計のイオン源へ継続的にブリードが生じます。Integra-transfer lineは、固定相を含まないTriMax不活性化処理済みのチューブを使用しているため、ブリードを大幅に低減できます。イオン源の汚染が減ることで、イオン源の洗浄頻度が下がり、化学的ノイズが減少し、微量成分に対するSN比が向上します。
Integra-GuardとIntegra-transfer lineを組み合わせたデュアル形式のRMX-5Sil MSカラムは、ガードカラムとトランスファラインの両方の機能を1本のカラムに集約しており、流路のどこにも外部接続を持ちません。品番も1つにまとまっています。
ここまでGCカラム技術の重要性について詳しく伺いましたが、注入口についても触れていただきましたので、最後に注入口ライナーについて伺いたいと思います。ライナーは残留農薬分析にどのような影響を与えるのでしょうか。
注入口ライナーは非常に重要な部材です。サンプルが分析システムに最初に接触する場所であり、スプリットレス農薬分析では通常250〜280°Cという高温に保たれています。高温に加えて表面の反応性まで高いと、分析対象成分の中でも最も活性の高い化合物は、カラムに到達する前に分解してしまいます。不活性化処理が不十分なライナーでは、活性シラノール基がフェノール系農薬と水素結合を形成します。ベンズイミダゾール類のような塩基性化合物は、不可逆的に吸着することもあります。既知の濃度を注入したつもりでも、その一部が注入口を通過できずに失われてしまうのです。
このような分析対象成分の分解を防ぐため、私たちはTopazライナーを使用しています。高い不活性度が実証されており、グラスウール部分にまで及ぶプレミアムなシリコン系不活性化処理が施されているためです。Topazライナーでは、注入口の不活性度を評価する際の指標化合物として広く使われるエンドリンとDDTについて、分解の水準が非常に低く抑えられています。不活性化処理に加えて、ライナー形状は注入モードに応じて選択する必要があります。スプリット注入では中央にグラスウールを配置したライナー、スプリットレス注入ではバッフル形状のライナーを用いることで、気化したガスを適切に集束させることができます。
今回の検討では、TopazバッフルライナーをRMX-5Sil MSカラムと組み合わせて使用しました。ライナーのデータから明らかになったのは、ライナーの使用期間全体を通じて、最も活性の高い化合物が一貫して保護されていたことです。メンテナンス間隔を6本から8本のライナーまで延長し、システムに大きな負荷をかけた場合でも、RMXカラムと高い不活性度を持つTopazライナーの組み合わせにより、対象農薬の大部分について、許容範囲内の回収率を維持できました。
注入口ライナーとGCカラムは、まさに一体となって機能します。優れたカラムを使用していても最も活性の高い化合物がカラムに到達する前にライナーによって分解されてしまったら、データの品質は損なわれます。GCカラムとライナーは、分析対象成分の回収率に共に影響を与えるため、システムとして最適化する必要があります。
本日は大変興味深いお話をありがとうございました。
RMXカラムがもたらす可能性について、もっと知りたい方へ
今回ご紹介したRMXカラム(TriMax技術採用)、Topazライナー、Integra-Guard形式が、実際のワークフローをどのように改善できるか、ぜひ以下のリソースからご確認ください。


