アプリケーション

米国EPA Method 537.1によるPFAS分析:コンタミフリーなワークフローと高精度サンプル前処理

08 Apr 2021

feature EVAN3497

概要

PFASは環境中の至る所に存在しており、その分析には汚染のない(コンタミフリーな)ワークフローが不可欠です。このアプリケーションノートでは、分析プロセスにおける汚染を防ぎ、信頼性の高いデータを得るための具体的な方法を紹介します。一貫してバックグラウンド汚染を防止するのに必要なポイントやEPA Method 537.1の基準を満たすためのサンプル前処理手順を、推奨消耗品も含めて詳細に説明します。加えて、装置内に残留する可能性のある汚染物質を効果的に除去するPFASディレイカラムを活用することで、再現性とデータ精度を確保する手段も提示しています。これらの実践的な方法により、より安心して分析結果を導き出すことが可能です。

はじめに

ペルおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の、人体への曝露や潜在的な健康への悪影響に対する懸念が高まっているため、これまで以上にPFAS分析は必要とされています。PFASは残留性があるということと、多くの産業での様々な製品としての用途が幅広い(焦げ付き防止の台所用品、防水/防風性の衣服、水性膜形成フォーム(AFFF)から食品包装用コーティング等)という特質を持つため、世界的に広く存在する汚染物質と言えます。そのため、土壌、排水、飲料水、その他の環境マトリックスの検査や、食品のPFAS検査は増加の一途をたどっています。

2020年、米国EPAは飲料水中のPFAS分析に対応したMethod 537.1改訂2版 [1] を発表しました。このメソッドでは、サンプル前処理はスチレン-ジビニルベンゼン(S-DVB)SPEカートリッジを使用してサンプル処理を行うことが求められており、この抽出手順は遵守する必要があります。PFASによるバックグラウンドの汚染は、サンプルが通る経路の各部分から溶出し、ターゲット化合物の分析を妨害する可能性があります。そのため、消耗品のロットが変更される際には、新しいロットが分析に与える影響を確認する必要があります。具体的には、バックグラウンド汚染レベル、データの精度、および再現性が許容範囲であることを実証しなければなりません。このような適格性試験を実施した後も、性能を継続的に保証するために、ルーチンのブランクサンプルおよびQCサンプルの分析を行うことが求められます。

典型的なワークフローでは、サンプルが接触したものすべてがPFAS汚染または吸着の原因となり得ます。サンプルが接触するものには、サンプリングボトル、化学物質(Trizma base、溶媒、移動相など)、ピペット、SPE製品、マニホールドまたは自動システム、チューブ、フィルター、バイアル、バイアルキャップ、LC内のコンポーネントなどが含まれます。PFASの溶出が確認されているPTFEなどの材質や、ターゲット成分が吸着する可能性のあるガラス製品の使用を避けるだけなく、PFASのコンタミ源とならない清浄性を備えた高品質な消耗品を使用することが重要です。これにより、分析におけるシステム適合性を確保するとともに、システムのダウンタイムを防ぐことができます。

このアプリケーションノートでは、U.S. EPA Method 537.1に従い、厳格なメソッド要件を満たすコンタミフリーなワークフローを実証しました。ここで示されたデータセットはMethod 537.1に準拠していますが、PFAS汚染は非常に広範囲にわたるため、バックグラウンドPFASの有無を確認するための同様のテストは、他のPFASメソッド[2]においても強く推奨されています。

実験

校正用標準溶液および品質管理(QC)サンプル

PFASの分析標準物質、内部標準物質、およびサロゲート標準物質を用いて、EPA Method 537.1に記載の手順に従い、校正用標準溶液とラボ添加ブランク(LFB)を調整しました。8点の校正用標準溶液は、サンプル前処理中に行われる250倍濃縮に先立ち、飲料水中の0.8~200pptに相当する0.2~50ppbの濃度範囲で作製しました。ラボ試薬ブランク(LRB)およびLFBは、EPA Method 537.1, Section 9.2.2~9.2.4に従って使用されました。また、40pptでスパイクしたLFBを用いて、このメソッドの精度および再現性を評価しました。

サンプル前処理

LFBサンプルには、250 mLの超純水(18.3 MΩ•cm)に分析用標準物質とサロゲート標準物質添加しました。LFBサンプルは、抽出までポリプロピレン製の容器で保管しました。このワークフローに使用された消耗品の詳細は、Table Iを参照してください。

PFASの抽出には、Resprep S-DVB SPEカートリッジ(6 mL、500 mg)をResprep真空マニホールドに取り付けて使用しました。カートリッジはまず、15 mLのメタノールで平衡化を開始し、その後18 mLの超純水を通水して平衡化を完了しました。この間、カートリッジ内の粒子ベッドが乾燥しないように注意しました。PTFEトランスファーラインの使用を避けるため、SPEカートリッジにはアダプターを使用してリザーバーを取り付けました。Figure 1に示した、リザーバーを用いたセットアップにより、サンプルの追加がより簡便になりました。サンプル前処理の詳細については、後述のFigure 2を参照してください。

抽出時には、約10~15 mL/分の流速を維持し、抽出プロセス全体を通して粒子ベッドが乾燥しないように注意しました。サンプルがカートリッジを通過した後、各サンプルボトルを7.5 mLの超純水で2回洗浄、その洗浄液を用いて各サンプルリザーバーも洗浄し、サンプル中のPFASが残らないように留意しました。

抽出後、SPEカートリッジを真空マニホールドに取り付けたまま空気を吸引して乾燥を行いました。乾燥後、捕集チューブをマニホールド内に設置し、4 mLのメタノールを各SPEカートリッジに2回通水し捕集しました。その後、捕集チューブをマニホールドから取り外し、サンプル抽出液を65℃で加熱しながら、窒素気流下で乾固しました。

サンプル乾固後、96%メタノール溶液(メタノール:水 96:4) 1mlと内部標準物質を添加し、ボルテックスを用いて混合しました。ボルテックス後、濃縮された溶液を一定分量、ポリプロピレン製のサンプルバイアルに移し、ポリエチレン製キャップで蓋をしました。その後、PFAS ディレイカラム(cat.# 27854)とRaptor C18 LC カラム(50 mm x 2.1 mm, 2.7 µm; cat.# 9304A52)を用いてサンプルを分析しました。メソッド条件はFigure 3およびFigure 4を参照してください。

Figure 1: 真空マニホールドに取り付けたResprep S-DVB SPEカートリッジにサンプルリザーバーを装着
figure article EVAN3497 01
Figure 2: Method 537.1 に従ったサンプル前処理。注意: どのステップでも、カートリッジベッドを乾燥させないでください。
figure article EVAN3497 02 suzujp

Table I: Method 537.1によるPFAS分析に使用するサンプル前処理用製品

製品名Restek Cat.#
Resprep S-DVB SPE カートリッジ (6 mL, 500 mg)28937
Resprep 真空マニホールド (12ポートまたは24ポート)28298-VM28299-VM*
リザーバー(ポリプロピレン製)26015
コネクタ(ポリプロピレン製)26007
バイアル(ポリプロピレン製)23245
バイアルキャップ(ポリプロピレン製)23247

*本研究では12ポートのマニホールドを使用しました。SPEカートリッジはマニホールド本体には直接触れず、使い捨てライナーのみと接触します。そのため、12ポートと24ポートのどちらのマニホールドでも問題なく使用できます。

結果と考察

Method 537.1による飲料水中のPFAS分析では、サンプル収集から分析に至るまで、ワークフロー全体がコンタミフリーであることが求められます。具体的には、システムのバックグラウンド汚染が低く、分析結果に適切な精度と再現性があることを、初期段階から継続的に確認する必要があります。清浄性を確認するため、メソッドに従い、3つの異なるロットのResprep S-DVB SPE カートリッジを使用してラボ試薬ブランクサンプルを調製しました。Figure 3に示すように、すべてのロットでターゲットの分析対象成分は検出されず、コンタミフリーであることが確認されました。また、これにより、Method 537.1, Section 9.2.2で定義されている「システムバックグラウンドが低い」という要件を満たしていることが証明されました。さらに、シグナル対ノイズ比(SN比)>3と定義した場合のLOD(検出限界)値は0.2~5ppt、SN比>10としたLOQ値は0.5~10pptとなりました。

この実験では、Resprep S-DVBカートリッジが複数のロットで一貫して清浄性があることが実証されただけでなく、TableⅠに示すサンプル前処理ワークフローを通じて使用された、いずれのコンポーネント(真空マニホールドシステム、バイアル、キャップなど)からも干渉する汚染物質が溶出しなかったことが証明されました。LC装置もバックグラウンド汚染の原因となり得ますが、LCの配管にはPEEKまたはステンレススチール製チューブを用い、さらにPFASディレイカラムが取り付けられていたため、今回の分析においてはバックグラウンド汚染は観察されませんでした。PFASディレイカラムは、LCシステム内のコンポーネントから溶出するPFASを捕捉し、サンプルの分析対象成分が溶出した後で、その補足成分が溶出するように“遅延”させることで、バックグラウンドPFASによる干渉を防止します。また、このPFASディレイカラムは、平衡化時間が長くなってもブレークスルーを防ぐほどの強力な保持能力を備えています。[3,4]

Figure 3: 複数ロットに関するラボ試薬ブランクサンプル(LRB)(ピークリストと分析条件を含む完全版はPDFでダウンロード可)
Multi-Lot Laboratory Reagent Blanks (LRB) for EPA 537.1 on Raptor C18

LC_EV0574

Method 537.1に基づくPFAS分析の回収率については、40 pptに調製したラボ添加ブランクサンプル(n = 4)を使用して評価しました。Figure 4に示された代表的なLFBクロマトグラムは、良好な分離とピーク形状、選択性を示しました。回収率に関するメソッドの要件を満たすには、LFBブランクサンプル全体の精度値は%RSDが20%未満であること、さらに同一のLFBブランクサンプルの精度が真値の±30%以内であることが求められます。Table IIに示されているデータから、メソッドの再現性および精度に関する要件(Method 537.1, Section 9.2.3.およびSection 9.2.4.)を問題なく満たしていることが確認されました。良好な回収率は、サンプルが通過する際に接触する様々な表面への吸着が起こらず、ターゲット成分が失われなかったことを示しています。

Figure 4: ミッドレンジ(40 ppt)でのラボ添加ブランクサンプル(LFB)(ピークリストと分析条件を含む完全版はPDFでダウンロード可)
Laboratory Fortified Blank (LFB) at Midrange (40 ppt) for EPA 537.1 on Raptor C18

LC_EV0573

Table II: 40 pptのラボ添加ブランクサンプル(n = 4)のMethod 537.1による PFAS 分析の精度と再現性の結果

分析対象成分%RSD*平均回収率**
Perfluorobutanesulfonic acid (PFBS)11.9%91.1%
Perfluorohexanoic acid (PFHxA)7.96%99.4%
Hexafluoropropylene oxide dimer acid (HFPO-DA)6.34%94.4%
Perfluoroheptanoic acid (PFHpA)4.19%92.7%
Perfluorohexanesulfonic acid (PFHxS)11.9%89.4%
4,8-Dioxa-3H-perfluorononanoic acid (ADONA)5.18%96.6%
Perfluorooctanoic acid (PFOA)5.21%91.6%
Perfluorononanoic acid (PFNA)6.79%97.2%
Perfluorooctanesulfonic acid (PFOS)6.78%87.8%
 9-Chlorohexadecafluoro-3-oxanone-1-sulfonic acid (9Cl-PF3ONS)8.59%85.1%
Perfluorodecanoic acid (PFDA)6.96%93.6%
N-methyl perfluorooctanesulfonamidoacetic acid (N-MeFOSAA)10.1%82.8%
N-ethyl perfluorooctanesulfonamidoacetic acid (N-EtFOSAA)16.5%106%
Perfluoroundecanoic acid (PFUnA)2.30%97.5%
11-Chloroeicosafluoro-3-oxaundecane-1-sulfonic acid (11Cl-PF3OUdS)5.47%87.6%
Perfluorododecanoic acid (PFDoA)5.73%99.0%
Perfluorotridecanoic acid (PFTrDA)12.7%89.1%
Perfluorotetradecanoic acid (PFTA)8.90%89.7%

*%RSDは20%未満であること
**回収率は真値の±30%以内でなければなりません。

結論

ここで示されたデータは、EPA Method 537.1によるPFAS 分析のワークフローにおいて、Resprep S-DVB SPE カートリッジおよびその他のサンプル前処理用製品が一貫してバックグラウンド汚染を防止していることを示しています。さらに、PFASディレイカラムの使用により、LC 装置内に潜在的に存在するPFASバックグラウンド汚染を効果的に除去できることが示されました。これらの結果から、本実験で使用した消耗品類をワークフローに取り入れることで、妨害となるバックグラウンド汚染が低減し、信頼性の高いシステム適合性と、より正確な分析および結果報告が可能になることが確認されました。

さらなる情報をwww.restek.com/PFAS-JPから今すぐ確認!

参考文献

  1. J. Shoemaker and D. Tettenhorst, U.S. EPA Method 537.1 Rev 2., Method 537.1 Determination of selected per- and polyflourinated alkyl substances in drinking water by solid phase extraction and liquid chromatography/tandem mass spectrometry (LC/MS/MS), 2020. https://cfpub.epa.gov/si/si_public_file_download.cfm?p_download_id=539984&Lab=CESER
  2. Restek Corporation, Product guide for PFAS analysis: a methods-based reference to lab supplies for PFAS testing (EVAR3498-UNV), (2021). https://www.restek.com/articles/product-guide-for-pfas-analysis
  3. Restek Corporation, Eliminate the impact of instrument-related PFAS interferences by using a delay column, (2019). https://www.restek.com/articles/eliminate-the-impact-of-instrument-related-pfas-interferences-by-using-a-delay-column (「ディレイカラムを用いたシステム由来のPFASによる妨害除去」)
  4. Restek, PFAS Analysis – Why a Delay Column is Important, Video. https://www.restek.com/videos/pfas-analysis-why-a-delay-column-is-important(「PFAS分析におけるディレイカラムの重要性とその効果-PFAS汚染管理」)

Products Mentioned


PFAS分析|ディレイカラム, 5 µm, 50 x 2.1 mm HPLCカラム
Raptor C18, 2.7 µm, 50 x 2.1 mm HPLCカラム
Resprep S-DVB SPE Cartridge, 6 mL/500 mg, 30-pk.
Low-Pressure Inlet Filter, 1/8" 10 µm Slip-On
Survival Kit for HPLC, Stainless Steel
Resprep QR-12 Vacuum Manifold
Resprep QR-24 Vacuum Manifold
SPE Empty Tubes, Sample Reservoir, 75 mL, Polypropylene, 12-pk.
SPE Connector, 1, 3, 6, 10, or 15 mL, Polypropylene, 15-pk.
Limited-Volume Screw-Thread Polypropylene Vials, 9 mm, 1.5 mL, 12 x 32 mm, 1000-pk.
2.0 mL, 9 mm Solid-Top Polyethylene Caps, Screw-Thread, 10 mil thick membrane, Clear, 1000-pk.
EVAN3497-JA