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固相抽出 (SPE) 完全ガイド:基礎から学ぶ効率的なサンプル前処理

19 Jul 2021

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サンプル前処理を行わずに、すべてのサンプルを正確かつ高精度に分析できることは、多くのクロマトグラファーが望む理想かもしれません。しかし、ほとんどの場合、この理想は実現が難しいのが現実です。分析対象成分が含まれる可能性のあるマトリックスが、定性・定量分析に影響を与えることがあるからです。特に複雑なマトリックスや非常に低濃度の分析対象成分を含むサンプルを処理する場合、単純な希釈では十分な効果が得られず、正確かつ精密な分析が困難になるでしょう。このような場合、より積極的なサンプル前処理が必要となります。

サンプル前処理にはさまざまな手法がありますが、その中でも広く採用されているのが固相抽出(SPE:Solid Phase Extraction)です。SPEは、マトリックス成分をサンプルから分離し、汚染物質の干渉を受けずに分析対象成分をモニターするのに役立つ技術です。SPEは、液体クロマトグラフィーを装置やクロマトグラムなしで行うもの、と考えるとわかりやすいでしょう。なぜなら、SPEでは、分析用クロマトグラフの分離原理がそのまま適用されているからです。

分析クロマトグラフィーにさまざまな移動相や固定相があるのと同様に、SPE製品やプロセスにもさまざまな選択肢があります。すべてのアプリケーションに対応する完璧なサンプル前処理法は存在しませんが、さまざまなサンプルや状況に対応できるよう、多様な選択肢が存在することは、クロマトグラファーにとって大きな助けとなるでしょう。しかし、SPEに不慣れなクロマトグラファーにとっては、このような選択肢の多さが戸惑いの原因となるかもしれません。

この記事では、サンプル前処理技術として広く使われているSPEについて、基礎から応用まで簡単かつ詳しく解説します。具体的には、SPEの基本的な分離メカニズムや戦略、分析対象成分の精製やクリーンアップ、分画や濃縮のアプローチについて説明します。また、SPEで使用されるさまざまなフォーマットや充填剤の特性、さらにはメソッド開発時に考慮すべき要素についても触れます。さらに、SPEメソッドの最適化を進める上で役立つ実験の進め方や、製品に付属する取扱説明書の活用方法についても紹介します。

固相抽出 – サイレント・クロマトグラフィー

新しいSPEプロトコルを作成する必要がある場合、その本質を「検出器のないクロマトグラフィー」と理解しておくと安心です。SPEカートリッジ内でクロマトグラフィーが行われていますが、クロマトグラムを確認する検出器がないため、これが「サイレント・クロマトグラフィー」と呼ばれる理由です。

SPE全体をシステムと捉えた場合、SPEにも移動相と固定相が存在します。移動相はサンプル中の汚染物質を洗浄し、目的の分析対象成分を溶出するために使用される溶媒です。固定相はSPEの充填剤であり、マトリックス中の化学物質を保持する役割を持ちます。これにより、SPEプロトコルもクロマトグラフィー分離に影響を与えるパラメータを考慮する必要があります。特に、分析対象成分と干渉するマトリックス成分との理想的な分離を達成するために、クロマトグラフィーの保持、選択性、分離効率を考慮することが重要です。

SPEにおいて効率的に分離を行うためには、流速も重要なパラメータの一つです。分析対象成分がSPEの充填剤に十分に保持されず、不要なマトリックス成分と一緒に流出してしまうブレークスルーを避けるためには、充填剤との相互作用の機会を十分に確保する流速が必要です。

つまり、クロマトグラフィーと同様に、SPEにおいても、サンプル中成分と移動相および固定相との間にさまざまな強さの相互作用を生み出す条件設定が求められます。そのため、どのようなSPEメソッド開発においても、サンプルの成分構成を理解することが不可欠です。逆に、サンプルの物理的および化学的特性を把握しなければ、そのサンプルに最適なSPE充填剤や溶媒を選ぶことは困難です。

SPEの分離メカニズム

SPE製品の主要な相互作用メカニズムを理解することで、サンプルに必要な情報が明確になります。多くのSPE製品では、極性とイオン交換という2つの主要な相互作用メカニズムを活用したものが多いと言えるでしょう。SPEは通常、これらのメカニズムの一方または両方を利用しており、サンプルのニーズに応じて、さまざまな極性やイオンの電荷状態に応じた分離を可能にします。

極性

極性を利用してマトリックスから分析対象成分を分離する際には、順相モードと逆相モードのいずれかを選択します。順相モードでは、極性の高いSPE充填剤と非極性の移動相を組み合わせ、極性成分を保持しながら非極性成分を溶出させます。一方、逆相モードでは、非極性のSPE充填剤と極性の高い移動相を組み合わせ、疎水性成分を保持しつつ親水性成分を溶出させます。充填剤の中には、溶媒の選択とサンプルによって、順相モードと逆相モードのどちらとしても機能するものもあります。例えば、CarboPrep PlusやDiolなどの充填剤です。

また、SPE固定相にはさまざまな極性があり、C18充填剤はC8充填剤よりも非極性成分を強く保持します。移動相の選択によっても極性の幅を広げることができ、緩衝液や添加剤の組み合わせで分離の微調整が可能です。

極性が分離の主要因となる場合、「似た者同士はよく溶ける(同類溶解)」という格言が参考になります。化合物が移動相や固定相の極性に似ているほど、より強い相互作用が期待できます。固定相との強い相互作用は、SPE充填剤上での保持の増加につながりますが、移動相との強い相互作用は、保持の減少につながり、成分の早期溶出を引き起こします。

イオン交換

分析成分が常に電荷を帯びている場合や、溶解液の条件によって電荷を帯びる場合、SPE充填剤も特定の電荷を帯びることで、分析成分との間に電気的な相互作用が生じます。このような古典的な静電引力を応用し、マトリックスや分析成分同士の効果的な分離を行うのがイオン交換です。

極性や同類溶解といった相互作用を利用した分離モデルとは異なり、電荷状態による相互作用を利用したイオン交換は、「逆の性質を持つものが作用しあう」という法則に従い、陰イオン交換と陽イオン交換の2つの主要なプロセスがあります。まず、陰イオン交換について説明します。このプロセスでは、プラスの電荷を帯びたSPE充填剤(陽イオン交換樹脂)が使用されます。SPE充填剤の表面にはマイナスの電荷を持つ陰イオンが引き寄せられ、結合します。サンプル中にマイナスの電荷を帯びた分析成分が存在する場合、その成分が加わると、元々結合していた陰イオンが置き換えられ、分析成分がSPE充填剤に保持されるというメカニズムです。

一方、陽イオン交換では、負の電荷を帯びたSPE充填剤(陰イオン交換樹脂)が使用されます。この場合、負の電荷を持つSPE充填剤の表面にはプラスの電荷を帯びた陽イオンが引き寄せられ、結合します。サンプル中にプラスの電荷を帯びた分析成分が含まれていると、その成分が加わった際に、元々結合していた陽イオンが置き換えられ、分析成分がSPE充填剤に保持されるという仕組みです。

ちなみに、イオン交換ではSPE充填剤と同じ電荷を持つ化合物は相互作用が発生せず保持されません。また充填剤にイオン交換以外の特性がない限り、中性種もほとどんど保持されません。このように、陰イオン交換と陽イオン交換はそれぞれ異なる電荷を帯びた充填剤と分析成分が相互作用するプロセスであり、両者が連携してさまざまな分析目的に対応しています。イオン交換プロセスは、溶液のpHやイオン強度などの条件に強く依存します。たとえば、溶液のpHが変化すると、分析成分や充填剤の電荷が変わり、保持の強さや溶出条件に影響を与えます。このため、イオン交換SPEでは、分析成分のpKaや溶液のpHを考慮し、最適な条件を設定することが重要です。

イオン交換SPEでは、分析成分と充填剤の電荷の「強さ」にも注意が必要です。分析成分が溶液のpHに関係なく常に電荷を帯びている場合、それは「強いイオン性」を持つとされます。一方、特定のpH条件下でのみ電荷を持つ場合は「弱いイオン性」を持つとされます。これを基にして、分析成分の電荷特性に応じた充填剤の選択が行われます。具体的には、「強いイオン性」を持つ分析成分には「弱い」イオン交換SPE充填剤を、「弱いイオン性」を持つ分析成分には「強い」イオン交換充填剤を選択するのが一般的です。強い分析成分と強い充填剤を組み合わせると、結合力が強すぎて溶出が困難になる場合があります。同様に、弱い分析成分と弱い充填剤の組み合わせでは、分析成分の保持が不十分となり、ブレークスルーを引き起こす可能性があります。

たとえば、SPE充填剤に保持させたい弱酸性化合物(pKa 2-8)が含まれたサンプルの場合、イオン交換のメカニズムを効果的に利用するためには、分析成分と充填剤の両方が荷電状態にある必要があります。この場合、強いイオン交換タイプの充填剤を選択し、溶液のpHを分析成分のpKaから約2程度高い値に設定します。こうすることで、分析成分がイオン交換充填剤にしっかりと保持される状態を確保できます。分析成分の保持を解除し、溶出させるには、溶液のpHを調整(pKaから2程度低く)して、分析成分が中性種となるようにします。これにより、イオン交換充填剤から解離し、溶出されます。

一方、サンプルに弱塩基が含まれている場合、弱塩基はpHが低下するとプラスの電荷を持つようになり、陽イオン交換が行われます。この場合、強陽イオン交換タイプの充填剤を選択し、分析成分が帯電するように溶液のpH(pKa-2)を調整します。

イオン交換は複雑なプロセスですが、特に極性相互作用と組み合わせることで、非常に高い選択性を持った複雑なマトリクスのサンプルにも適用できるSPEメソッドを開発することができます(ミックスモードSPE)。

分離挙動の定量化が難しい表面相互作用

充填剤の保持に影響を与える可能性のある、分離挙動の予測が難しい表面相互作用には注意が必要です。例えば、C18シリカにおいてシリカ表面に多くのシラノール(Si-OH)基が存在する場合、C18リガンドによる疎水性相互作用だけでなく、シラノール基との強い相互作用が発生することがあります。シリカ充填剤の「エンドキャップ処理」の有無が重要になるケースもあります。エンドキャップ処理により、露出したシラノール基をメチル基に置換し、強い相互作用を抑制します。

ベンダー間、あるいは同一ベンダーの製品ロット間でも、製品の分離特性に違いが生じることがあるため、切り替えやロット変更時には事前の性能確認が重要です。

SPEの目標と戦略

SPEの基本的な分離メカニズムに慣れたら、次のステップは、SPEの目的について理解を深めましょう。一般的には次のいずれかの目的でSPEを行います。

精製/クリーンアップ

多くの場合、SPEの主な目的はサンプルの精製やクリーンアップです。精製やクリーンアップは、他のマトリックス成分から分析成分を選択的に分離することで、分析の妨害を防ぐことが目的です。サンプル中の夾雑成分や汚染成分から分析成分を選択的に分離することは、後の分離分析に大きな影響を与えます。

マトリックス中の夾雑成分との共溶出の防止:

共溶出は分析において望ましくありませんが、その影響は使用する検出器や分析条件によって異なります。GC-FIDやLC-UVといった定性性能に限界がある検出器では、共溶出により夾雑成分と分析成分が区別できなくなり、定量が難しくなったり誤同定を引き起こすことがあります。

MSやMS/MS検出器でも共溶出の問題は発生します。MSはスペクトルによる定性性能を有しますが、共溶出するマトリックス成分が分析成分のイオン化に影響を与え、シグナルが過小評価または過大評価されるマトリックス効果が生じることがあります。この影響を補正するためには、ブランクマトリックスを用いた検量線用標準試料による方法がありますが、SPEを用いた前処理も極めて有効です。

また、マトリックス成分が溶出すると、ベースラインの乱れやピーク解析の不正確さを招くことがあります。マトリックスが比較的単純で、分析成分が少ない場合には、前処理を行わず、分析カラムでの分離を最適化するだけで十分な場合もありますが、複雑なマトリックスや多くの分析成分がある場合、SPEによる選択的な分離が解決策となります。

マトリックス干渉による不要な相互作用の防止:

マトリックスは分析成分と一緒に溶出して検出に影響を与える以外に、装置内に残留して不要な相互作用を引き起こすこともあります。たとえば、前のサンプルからの残留マトリックス成分が、次の分析サンプルに影響を与えるようなケースです。これにより、分析成分のピーク形状が歪む(ピークテーリング)といった保持時間シフトの問題が発生することがあります。また、システムに残留した成分が分析成分と化学反応し分解生成物が生成されることもあります。分解生成物が分析カラムの手前で発生すると、新たなピークがクロマトグラム上に現れる可能性があり、分解生成物が分析カラム内で発生すると、ピーク形状の歪みにつながります。このように、装置内部の汚染がデータ品質に悪影響を与えることもあるため、あらかじめ取り除くことが理想的です。 サンプル希釈によってこれらの影響を軽減することもできますが、分析成分も希釈されるため、希釈が解決策とならないときは、SPEが次の良い選択肢となります。

マトリックスの蓄積による装置ダウンタイムの回避:

装置内にマトリックス汚染が蓄積すると、時間の経過とともに問題が発生することがあります。定期的な予防メンテナンスの間にトラブルが発生すると、装置のダウンタイムや再校正が必要になる可能性があります。SPEを用いた精製やクリーンアップは、これらの問題を未然に防ぐための良いアプローチです。

分画

定量分析の前に分析成分同士を分けてしまうことが有効な場合もあります。その時に役立つのが分画という考え方です。

例えば、サンプルに異なる化合物クラスが含まれていて、それぞれに専用の分析メソッドが必要となることがあります(例:抽出可能な石油炭化水素(EPH)分析における脂肪族化合物と芳香族化合物)。このような場合、SPEを利用して、サンプルを大まかに分画することで、その後の分析作業をスムーズに行えるようになります。

濃縮

クロマトグラファーは、分析対象成分の濃度が機器の定量限界を下回るような、非常に低濃度の分析対象成分を検出・定量する必要に迫られることがよくあります。このような場合、SPEメソッドを利用してサンプルを濃縮することが有効です。SPEでは、分析対象成分を効果的に保持しつつ、不要なマトリックス成分を取り除くことができます。濃縮された分析対象成分は、最終的に溶出溶媒で回収し、検出可能な濃度に調整することができます。

SPE戦略

SPE戦略を立てる際には、分析対象成分の挙動をどのように制御したいか考えることが重要です。SPEでは、充填剤に保持される成分と、保持されずに溶出される成分があります。この違いを利用して、分析対象成分を効率的に分離・濃縮することができます。

主な目標がマトリックス成分から分析対象成分を分離することなら、「分析対象成分パススルー」アプローチが有効です。マトリックス成分を充填剤に強く保持させながら、分析対象成分はほとんど保持させずに溶出させます。

一方、目標が濃縮であったり、また、パススルーがうまくいかない成分では、「分析対象成分キャプチャー」アプローチが有効です。充填剤に分析対象成分をしっかりと保持させ、マトリックス成分を洗い流した後、強力な溶出溶媒を使用することで、分離・濃縮が可能になります。

SPEのフォーマット

SPEメソッドを開発する際には、サンプルの特性を理解し、目標を明確にすることが重要です。分析対象成分を干渉物質から効果的に分離するために、適切な充填剤と溶媒を選ぶ必要があります。また、SPEのフォーマット選択も重要な決定要素です。

以下に代表的なSPEフォーマットについて説明します。

  • カートリッジ: 最も一般的なSPEフォーマットであり、手動および自動システムで使用されます。カートリッジは、充填剤を固定するフリットの間に1つまたは複数の充填剤と、充填剤上部にコンディショニング溶媒または溶出溶媒を追加するリザーバで構成されています。リザーバのサイズが分析するサンプルの体積に対応しているか、充填剤のベッドサイズがブレークスルーを防ぐために十分な保持力を提供できるかなどを考慮する必要があります。
  • 96ウェルプレート: 96ウェルプレートは、大量のサンプルを迅速に処理する必要があるハイスループットラボで使用されるフォーマットです。各ウェルは独立したカートリッジのように機能し、同時に多くのサンプルを処理できます。96ウェルプレートの利用は、特定の装置(例えば、自動ピペッターやオートサンプラ)と組み合わせて行うことが多く、これらの装置と互換性のあるフォーマットを選択することも重要です。
  • 分散型SPE(dSPE): QuEChERS法を用いたサンプル抽出物のクリーンアップに特化した手法です。dSPEでは、SPE充填剤をサンプル抽出物に直接加え、振とう後後に遠心分離を行い、分析対象成分を迅速に処理します。この方法は特に食品安全分野で広く利用されており、複雑なサンプルマトリックスからの迅速なクリーンアップが可能です。
  • インラインサンプル前処理 (ILSP): LC-MSおよびLC-MS/MSアプリケーションに適したフォーマットで、装置に注入されたサンプルが最初にILSPカートリッジを通過し、分析対象成分を分離します。
  • ディスク: 一部の特殊なアプリケーションで使用されるフォーマットです。通常のカートリッジよりも高い流量で大量のサンプルを処理できます。
  • バルク: 独自のサンプル前処理装置を希望する顧客向けにバルクで販売される充填剤です。一般的なSPEメソッド開発ではあまり使用されません。

フォーマットに加え、サンプルとの適合性やSPE製品自体からの不要な干渉を防ぐために、材質も重要です。プラスチックカートリッジでは十分な耐性が得られない場合には、耐性のある不活性ガラスを使用することが推奨されます。また、PFASを低レベル濃度でモニタリングする場合、バックグラウンドコンタミネーションを避けるために別の材質が必要になることがあります。

注目すべきSPEの特性

SPEメソッド開発では、サンプルの特性を理解し、最適な充填剤と溶媒を選択することが重要です。特に、極性、イオン交換、またはその両方を活用したミックスモード分離メカニズムを考慮した選択が求められます。これに加えて、製品説明に記載されている充填剤の特性を理解することで、SPEのパフォーマンスをさらに向上させることができます。

以下に、SPEの結果に影響を与える主要な特性について説明します。

充填剤の特性

  • 粒子特性: 同一製品内で粒子サイズや細孔サイズ/容積は比較的一定ですが、ベンダー間で比較すると違いが見られることがあります。ターゲット分析成分が粒子の細孔に入るのに十分なサイズである場合、粒子サイズや細孔サイズ/容積は表面積と炭素含有量に大きく関係します。
    • 注:粒子径は、直接測定する方法と「メッシュサイズ」として測定する方法があります。メッシュサイズとは、1インチあたりの網目の数を表す指標です。数字が大きいほど網目が細かくなり、小さな粒子をふるいにかけることができます。一般的に、メッシュサイズが大きいほど粒子のサイズは小さくなります。
  • 表面積(m2/gで表示): 粒子サイズと粒子の細孔のサイズおよび体積によって定義され、サンプルが充填剤を通過する際に相互作用可能な表面積を表します。表面積が大きいほど、保持は強くなります。粒子径や細孔径が小さい充填剤は、粒子径や細孔径が大きい充填剤よりも単位面積(g)あたりの表面積が大きくなります。
  • 炭素含有量(充填剤総質量に対する割合で表示): SPE充填剤の表面に化学物質が結合している場合に使用されます。シリカ粒子の表面にC18リガンドが結合している場合、炭素含有量は、結合リガンドの表面被覆率を示し、充填剤の保持力の指標となります。炭素含有量が高い充填剤は、疎水性化合物に対して単位重量あたりの保持力が高い傾向があります。
  • イオン交換容量(mEq/gで表示):充填剤がサンプル中のイオンを補足する能力を示す指標で、対イオンを形成できる部位の総量を示します。ミリ当量/グラム(mEq/g)は、充填剤がどれだけの量の電荷を持つイオンを交換できるかを示し、この値が大きいほどイオン保持能力が高いことを意味します。

カートリッジ特性

  • ホールドアップボリューム:SPEのホールドアップボリュームは、保持されない物質を溶出させるために必要な溶媒量を指します。これは、分析クロマトグラフィーにおける「ホールドアップタイム」や「デッドボリューム」と同様の概念です。ホールドアップボリュームが適切でないと、分析対象成分の回収率に影響を与えるため、確認が必要です。
  • ロードキャパシティ: SPE充填剤が保持できる物質の量の推定値であり、通常、充填剤ベッドの重量の約10%として示されます。ただし、この推定値は、非常に弱い溶媒を使用した場合の保持を前提としています。サンプルの性質、溶媒、流速など、多くの要素が最終的なロードキャパシティに影響を与えるため、実際のキャパシティは異なることがあります。最適なロードキャパシティを知るためには、実験的な確認が推奨されます。

SPE製品に付属の説明書をガイドとして使用

さまざまな種類のサンプル、分析対象成分、および分析方法が存在するため、すべてのケースに適用できる共通のSPEメソッドは存在しません。しかし、サンプルを理解し、それに適したSPE製品を選択すれば、その製品の説明書が有効なガイドとなります。

SPEメソッド開発における実験の価値

SPEメソッドを開発する際には、いくつかの実験を行うことが推奨されます。これにより、SPEプロセスの各ステップで分析対象成分が望ましい挙動を示しているかを確認できます。これらの実験を通じて、次の点を確認・改善しながら進めると、より良いSPEメソッドの開発が可能です。

  • 充填剤と溶媒の選択が適切かどうかを確認する。
  • メソッドの目的を達成するために必要最小限の充填剤量やカートリッジサイズを使用しているか確認する。
  • ローディングや洗浄ステップで、サンプルのブレークスルーによって分析対象成分が失われていないか確認する。
  • 選択した条件下で分析対象成分が効果的に溶出されているか、充填剤に残留していないかを確認する。

通常、メソッド開発中に「マスバランス」と「ブレークスルー」に関する試験の実施が推奨されます。これらの試験は、分析対象サンプルに対してプロセスが適切かどうかを確認するために有効です。

マスバランス:この試験では、SPEプロセスの各ステップでSPE製品から溶出するすべての化合物を収集し、SPEプロセス全体における分析成分の挙動を評価します。サンプル組成に近い試料を準備し、この実験を行うことで、保持したい成分がきちんと充填剤に保持され、溶出させたい成分が各ステップで正しく溶出されているかを確認できます。

ブレークスルー: この試験では、開発したメソッドに合わせたサンプル体積を基準に、さまざまな体積のサンプル(分析対象成分の濃度は統一)を使用します。異なる量のサンプルをSPEにロードし、前処理プロセスを実行して溶出物を収集し、分析します。その後、ロードしたサンプル量と濃度に基づいて回収率を計算します。サンプルのロード量と回収率をプロットすることで、どのサンプルロード量でブレークスルーが起こるかを把握できます。保持効率がサンプルローディング速度によって変わらないよう、一定の速度でローディングを行うことが重要です。

SPEメソッドの開発にお困りですか?

SPEメソッドの確立には多くの選択が求められますが、この記事ではそのはじめの一歩を紹介しました。固相抽出はクロマトグラフィーの一種と考えることができます。SPEメソッドの開発を進めるにつれて、マトリックス、分析対象成分、および分析に特有の疑問が生じることがあるかもしれません。クロマトグラフィーの専門家であるRestekが、いつでもお手伝いしますので、ご不明点やお困りごとがあればご連絡ください。

ラボでのSPE使用に関するご質問は、Restek担当者にお問い合わせください。

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