ペルおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)は、環境や人体、動物に至るまで、広範囲に存在します。加えてPFASは残留性を持ち、蓄積される可能性も高いため、多くの規定に沿った厳格な監視と評価が求められています。PFASはサンプルやシステムにも混入している可能性があるため、分析結果において意図しない汚染(コンタミ)を引き起こし、時に偽陽性を生じさせる原因となることも少なくありません。では、PFASはどこに存在しているのでしょう?最も見落としがちなコンタミの発生源とは?どうすれば偽陽性は防げるのでしょうか?
PFASコンタミの発生源を特定する
PFASによる交差汚染(クロスコンタミネーション)は、サンプル採取から分析結果に至るまでの各プロセスにおいて発生する可能性があります。そのため、サンプルの取り扱い方や分析装置に使われる部品素材にも注意を払うことが不可欠です。サンプルがPFASを含む、またはコーティングされた素材に一切触れないようにすることが、汚染を防ぐ第一歩です。各ステップの重要なポイントを細かく見ていきましょう。
サンプル採取時の注意点
■避けるべき製品:
・ 低密度ポリエチレン(LDPE)ボトル、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む衣類(撥水加工された服や防水コートなど)
・ 防水ノート、プラスチック製クリップボード、貼り付け式メモパッド、油性マーカー、再利用可能なアイスパック(ブルーアイス)など
■推奨事項:
・ 高密度ポリエチレン(HDPE)製やポリプロピレン製ボトルを使用したサンプリング
・ サンプリング後に、ラベルの貼付(サンプリング前にラベルを添付しない)
・ 可能であれば、事前スクリーニングされたボトルの使用
サンプル前処理での注意点
PFASは、ガラス容器に長時間接触することで吸着するため、サンプル前処理に使用する容器や器具には細心の注意が必要です。
■避けるべき製品:
・ ガラス製トランスファーピペット、PTFEシール付きバイアルキャップ、一部のガラス製HPLCバイアルなど
・ アルミホイル(ノンスティックコーティングされているため)
・ 日焼け止め/防虫剤、柔軟剤、保湿剤、防汚加工された白衣
・ PFASフリーが確認できていない洗浄剤を用いたガラス器具洗浄
■推奨事項:
・ゴム、ポリ塩化ビニル(PVC)プラスチック、ポリウレタンなどの素材で作られた器具の使用
・綿製の白衣、ニトリル製手袋の着用
・ポリプロピレン製HPLCバイアル、キャップ(Cat.#: 23244)、ポリプロピレン製使い捨てピペットチップの使用
・手洗いによるガラス器具洗浄
SPEマニホールドを使用するすべての前処理に共通することですが、クロスコンタミネーションを防ぐために、前処理が終了したら、再利用する部品はアセトニトリルで洗浄し、約10分間超音波処理することをお勧めします。
分析装置におけるPFASの影響
PFAS分析において、使用する装置にもPFASの影響が及ぶことがあります。特に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の部品が装置に使用されている場合、その残留物が結果に悪影響を与える可能性があります。
■注意点:
・すべてのPTFEチューブ、PTFEフリット、特定のローターシールやステーター面のあるサンプルバルブの使用を避ける
・LC-MS/MSシステムが長時間放置されていた場合、残留PFASの蓄積が原因で、最初の注入で高濃度のPFASが検出されることがある
システム由来のPFAS干渉を最小限に抑えるために、システムのチューブをポリエーテルエーテルケトン(PEEK)チューブやステンレススチールに(コストが高く現実的ではない場合もありますが、各社が出しているPFAS分析に特化したキットを使用して)交換してください。ミキシングチャンバーの後にPFASディレイカラム(Cat.#: 27854)を追加して、システムに関連するPFASをトラップするのも良い方法です。分析を開始する前に、分析カラム(US EPA 533, US EPA 537.1, ISO 21675:2019, ASTM D7968-17A, ASTM D7979-19, DIN 38407-42等のメソッド用のRaptor C18, (Cat.#: 9304A52))を20-30カラム容量で平衡化し、実際の分析条件を用いて有機溶媒(アセトニトリル)を3~4回注入し、インジェクターに残留しているPFASを洗い流してください。
■参照情報:
・ディレイカラムについては、ビデオ「PFAS分析におけるディレイカラムの重要性とその効果ーPFAS汚染管理」とブログ「ディレイカラムを用いたシステム由来のPFASによる妨害除去」もご参照ください。
・カラム選択については、「PFAS分析用のLC カラムには、どの固定相、サイズ、粒子径が最適か?」の記事をご参照ください。
上記以外のPFAS分析に関する情報は、www.restek.com/PFAS-JPから確認できます!
溶媒の取り扱いとPFASコンタミ防止
見落とされがちなPFASコンタミとして、使用する溶媒や移動相が挙げられます。そのため、移動相として使用する水や有機溶媒がPFASで汚染されていないか、事前にスクリーニングを行うことが重要です。
■注意点:
・HPLCやLC-MS/MSグレードの移動相(水、アセトニトリル、メタノール)は、製造時にPTFEフィルターが使用されることが多い
・ボトルキャップにPTFEライニングが施されている場合もある
・微量のPFASコンタミを含む移動相においても、Type 1水を使用することで安定した分析が可能
さらに、分析システムにディレイカラム(Cat.#: 27854)を設置することで、移動相への影響を抑える効果が期待できます。また、試料調製に使用する溶媒についても、サンプルブランクやフィールドブランクを含め、事前にコンタミネーション有無のスクリーニングが重要です。
効果的なPFAS分析のための最適な実践
PFAS分析において最も重要なのは、すべての消耗品、システム、サンプルが触れる素材がPFASを含まないかを確認することです。新しい部品や溶媒を導入する際には、その都度PFASが含まれていないかどうかをテストし、常に適切なラボプラクティスを守ることが求められます。

