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PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 第2回: クロマトグラフィに基づいた最適化

01 Dec 2021

最終更新日:2025年10月10日

OTM-45におけるクロマトグラフィの重要性とは

「第1回」では、OTM-45(EPA提案の大気中PFAS分析法)に関する導入ガイドでした。このメソッドにおける中心的な技術要素は、試料採取と抽出にあることはご理解いただけたかと思います。そこで「第2回」では、前処理工程の妥当性や試料採取系の有効性を適切に評価するためにもクロマトグラフィに注目すべきである、という点について解説していきたいと思います。

OTM-45のHPLCグラジエント条件とその背景

OTM-45は、LC-MS/MSメソッドに関して具体的指針をほとんど示していません。EPA 533(飲料水中のPFAS分析メソッド)をベースにしており、使用する溶媒グラジエントもEPA533と全く同じで、Table 1に記載している通りです。しかし、それ以外の部分については分離度とピーク形状を最適化するように、という指示のみです。

時間 (min)20 mM 酢酸アンモニウム濃度メタノール濃度
開始時95.05.0
0.595.05.0
3.060.040.0
16.020.080.0
18.020.080.0
20.05.095.0
22.05.095.0
25.095.05.0
35.095.05.0

Table 1 – OTM-45 HPLCグラジエント条件例

「時短かつ簡単」が優先される現代において、35分のランタイムは長すぎると感じる方が多いでしょう。時間短縮は、Fig. 1に示したように簡単に行えます。今回使用した分析条件はSW-846 8327 Methodのものと非常に近い設定です。異なる点は、いくつかの後期に溶出する化合物を正確に検出するために、移動相Bの95%条件をわずかに延長している点のみです。

blog-OTM-45-blog-2-chromatography-01.png

Fig. 1 – HPLC-MS/MS条件

クロマトグラムで見るPFAS化合物の保持時間とピーク形状

Fig. 2にはこのメソッドのクロマトグラムと保持時間が示されています。Force C18カラムを使えば、早期に溶出する化合物 PFBAでも良好なピーク形状を得ることが可能です。

graphical user interface

Fig. 2 – OTM-45分析のクロマトグラムと化合物の保持時間

注入溶媒と注入量がPFBAピークに与える影響

ただし、PFBAのピーク形状は崩れやすい性質を持つため、溶媒の選択と注入量に注意が必要です。溶媒についてOTM-45のSection 10.3では、早期に溶出する成分を精度よく分離することを目的とした、抽出液の水性成分増量を許可していません。また、Section 11.2.2では、サンプルを、DI水または5%アンモニア水酸化物をメタノールに溶かした溶液のいずれかを使用して濃縮した後、2 mLまで調整することを指示しています。また注入量については、Fig. 3に示したように、メタノール溶液のみの注入ではピークの分裂を引き起こす可能性があります。代わりにEPA 533の最終的な溶媒組成と同じ、メタノール:水(80:20)の混合溶媒を使用すると、5 µLではピークのフロンティングが若干生じたため、3 µLに下げたところ対称的なきれいなピークを得ることができました。

shape, rectangle

Fig. 3 – 5 µL 100 % MeOH(左)、5 µL 80:20 MeOH:水(中央)、3 µL 80:20 MeOH:水(右)でのPFBAのピーク形状

HPLCシステム圧力への対応:カラム粒径の違いとその影響

このメソッドの欠点は、必要とする圧力が非常に高いことです。1.8 µm Forceカラムのピーク圧は約7000 psiに達し、これは一部のHPLCシステムにとっては高すぎます。これについては、3.0 µm Forceに切り替え、圧力を約3000 psiに下げるという対策を講じることができます(Fig. 4参照)。

chart

Fig. 4 – 3.0 µm Force カラム(上、最高圧力 ~3000 psi)と 1.8 µm Force カラム(下、最高圧力 ~6000 psi)の圧力

カラム粒径を1.8 µmから3.0 µmへ変更しても、保持時間にほとんど影響はありません。Fig. 5によると、早期に溶出する化合物の保持時間は約6%ほど長くなりますが、この影響はそのうちのいくつかに限られ、それ以外の化合物の保持時間は粒径が変わってもほとんど変化しません。

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Fig. 5 – 3.0 µm:1.8 µm Force カラムの保持時間比

粒径変更による感度変化と分析への影響

粒子径を大きくすることによって、平均ピーク高さはわずかに低下します。これにより、分析目的やデータ解析条件によっては影響があるかもしれません。Fig. 6には20 ppb標準試料における相対ピーク高さの比較が示されています。一部の化合物は3 µmカラムの方がピークは高くなりますが、大半の化合物は1.8 µmカラムでより高いピーク高さを示しています。したがって1.8 µmカラムではS/N比が向上し、微量分析においても精度の高い定量が実現されます。高圧対応可能なシステムであれば、1.8 µmカラムを使用することで検出感度の向上が見込めます。

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Fig. 6 – 3.0µm:1.8µm Force カラムのピーク高さ比

今回のブログシリーズではOTM-45にフォーカスしていますが、ここで示したメソッドは、対象化合物が多い他のPFASメソッド(例えばドラフト版Method 1633 注:Method 1633は2024年に最終版が公開済みです)に適用できるはずです。このシリーズの第3回では、装置分析のもう 1 つの重要な部分である校正を取り上げます。

<第1回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 概要
<第3回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 校正
<第4回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 レジン洗浄
<第5回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 レジン抽出

Author

  • Jason Hoisington

    Jason Hoisington received his bachelor’s degree in general science with a focus on chemistry from the University of Alaska, Fairbanks. He worked for SGS Environmental for seven years in environmental soil and water testing, developing methods for the analysis of volatiles and semivolatile organics to include pesticides and polychlorinated biphenyls (PCBs). In 2012, Jason moved on to lab and application support for Dow Chemical Company, providing advanced analytical troubleshooting and method development. In 2019, Jason joined Restek and has focused on air applications.

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