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PFAS排ガス分析の基準 OTM-45  第3回: 校正

22 Mar 2022

最終更新日:2025年10月10日

OTM-45における装置校正の重要性とは

このブログシリーズ第1回、第2回はお読みいただけましたでしょうか?第1回ではドラフト版OTM-45 Methodの概要、第2回ではLCメソッドのクロマトグラフィーについて説明しました。今回のブログでは、OTM-45用の装置の校正方法について解説していきます。

なぜ決定係数(r²)や %RSD が使われなくなったのか

TO-15Aの校正に関するブログにも書きましたが、検量線は私にとって非常に思い入れのあるテーマです。クロマトグラフィーやサンプル前処理への関心の高さと比べて、検量線への注目度はそれほど高くなく、形式的な作業として処理されてしまっている感があります。つまり、規定値や条件といったメソッド要件がクリアされているかをチェックすることに重点が置かれ、校正の設計が分析結果にどのような影響を与えるかについてはほとんど検討されていない、ということです。実際のところメソッド要件をクリアすること、特に決定係数(r²)の値を重視しすぎることで、かえって分析精度を悪化させる場合があります。この点についてはTO-15Aのブログでも軽く触れてました。r²値は「絶対誤差」に基づいて算出されるため、r²を最大化することだけを目的に検量線のフィッティングを行うと、全濃度範囲にわたる「絶対誤差」の最小化に偏りが生じやすく、特に低濃度領域では「相対誤差」が大きくなる可能性があります。この問題については、Eurofins社のRichard Burrows氏がNEMC 2020で素晴らしいプレゼンテーションを行っており、数学的な背景まで掘り下げて解説しています。

±10%基準とは?他のPFAS分析メソッドとの比較

TO-15Aのブログの時点から、キャリブレーション評価におけるr²値の扱いに大きな変更があったので、再度この点に触れています。具体的には、OTM-45はEPA Method 533および537.1(飲料水中のPFAS分析方法)に倣い、検量線の合否判定指標として決定係数(r²)や平均応答係数曲線の相対標準偏差(%RSD)の使用をやめました。唯一の要件は、校正点の算出値が真値の±10%以内であること(以降±10%と表記)です。これは良い面もあれば、潜在的に問題となる面もあります。つまり、曲線の評価が、r²や%RSDといった統計的指標ではなく、濃度ごとの測定精度(相対誤差)に基づいているため、全濃度範囲における定量の信頼性をより適切に反映している、というのは利点と言えるでしょう。一方で問題となり得るのは、±10%という回収率の許容範囲が非常に厳しく、多くのラボが達成に苦労する可能性がある点です。EPA Method 533および537.1では、許容範囲が±30%、あるいは最小報告限界以下の点では±50%となっています。TO-15Aではr²や%RSDの要件は維持されていますが、回収率の許容範囲は±30%に設定されています。OTM-45で行われた検証では、49化合物中、±10%以内に収まったものは12化合物、10〜20%の範囲に入ったものが32化合物、20〜30%が5化合物、そして30%を超えたものはありませんでした。つまり、±10%基準を満たさなかった化合物は37種にのぼるということです。詳しい結果はTable 1をご参照下さい。

OTM-45の校正結果:±10%以内に収まらなかった化合物

 PFBAPF4OPeA3:3 FTCAPFPeAPFBSPF5OHxAPFEESA3,6-OPFHpA 
サンプル精度精度精度精度精度精度精度精度 
Cal 1112%114%89%101%114%97%94%92% 
Cal 2113%104%120%100%110%93%99%111% 
Cal 396%98%113%98%108%97%100%105% 
Cal 494%105%89%96%102%92%90%102% 
Cal 5103%107%82%94%106%94%91%108% 
Cal 688%94%90%101%101%98%95%107% 
Cal 791%101%117%110%99%101%102%98% 
 
 4-2 FTSPFHxAPFPeSHFPD-DAPFHpA5:3 FTCAFHUEAPFHxS 
サンプル精度精度精度精度精度精度精度精度 
Cal 1109%100%95%119%110%101%95%89% 
Cal 2100%108%103%115%103%103%89%101% 
Cal 3116%99%99%87%102%95%88%105% 
Cal 497%95%97%99%97%85%81%75% 
Cal 596%99%98%105%99%107%89%104% 
Cal 694%98%102%99%99%110%81%101% 
Cal 789%101%100%100%100%99%105%100% 
 
 FHEAADONAPFeCHS6-2 FTSPFHpSPFOAPFOSFOUEA 
サンプル精度精度精度精度精度精度精度精度 
Cal 1117%99%97%101%113%105%93%116% 
Cal 274%92%96%103%100%107%102%92% 
Cal 3119%90%98%118%95%101%81%87% 
Cal 4100%90%93%106%86%99%99%102% 
Cal 588%90%105%99%95%103%96%100% 
Cal 6103%93%100%104%104%102%103%97% 
Cal 7100%102%100%99%100%100%100%120% 
 
 PFNAFHpPAFOEA9Cl-PF3ONSL-PFNSPFDA8-2 FTSL-PFDS 
サンプル精度精度精度精度精度精度精度精度 
Cal 198%115%114%81%106%105%91%107% 
Cal 2116%80%108%99%116%103%83%73% 
Cal 3102%127%104%107%85%109%108%128% 
Cal 498%96%81%103%104%93%107%103% 
Cal 5100%104%110%104%99%96%107%94% 
Cal 694%99%98%104%88%100%106%88% 
Cal 792%100%100%103%102%100%98%108% 
 
 FDEAPFUnA11Cl-PF3OUdSFOSA-I10:2 FTSPFDoAPFDoSN-MeFOSA-M 
サンプル精度精度精度精度精度精度精度精度 
Cal 198%117%81%107%94%91%98%92% 
Cal 2118%113%84%93%116%113%107%87% 
Cal 3107%103%98%89%119%102%98%91% 
Cal 499%102%97%97%98%101%96%104% 
Cal 5119%99%95%95%91%96%90%93% 
Cal 690%97%96%96%103%98%97%102% 
Cal 787%101%101%101%100%100%114%100% 
 
 N-Me-FOSE-MN-MeFOSAAPFHxDAN-EtFOSA-MN-EtFOSE-MN-EtFOSAAPFODAPFTrDAPFTA
サンプル精度精度精度精度精度精度精度精度精度
Cal 1100%106%81%112%100%119%112%98%109%
Cal 2100%94%103%97%104%114%115%101%88%
Cal 3129%106%96%89%97%100%94%89%95%
Cal 479%88%89%98%93%104%86%92%100%
Cal 592%111%95%105%95%110%84%101%95%
Cal 6100%99%85%100%112%91%87%96%91%
Cal 7100%100%104%100%99%101%105%101%102%

Table 1: 校正精度(誤差)の結果

±10%基準を満たせない原因はどこにあるのか?

このように±10%基準を満たさない化合物が多かったという結果は、複数回校正を試行したなかでも一貫していました。そこで、考えられる原因を以下のように検討してみます。特定の標準品の問題なのか?±10%基準が満たされないのは特定の校正点に一貫して起きているわけではなかったので、これは違うでしょう。では、単発のスパイクサンプルに関連しているのか?校正用標準溶液はすべて、同一条件で調製した単一のストック溶液から希釈しているため、これも考えられません。内部標準の問題なのか?内部標準のピーク面積も安定しており、同じ内部標準を共有する化合物の中でも±10%の基準以内のものと超えたものが混在していたため、そうとは考えにくい状況でした。基準を満たした化合物はすべて、ペルフルオロアルキルカルボン酸(PFCA)か、OTM-45であいまいに「追加ターゲット」と呼ばれるグループに属していますが、これらはメソッドで扱う中で最大の化合物群であるため、必ずしも意味のある傾向とは言えません。

±10%基準は実用的か?今後のラボ運用で考えるべきこと

結局のところ、±10%基準を満たさないことに共通する原因は特定できませんでしたが、現状の結果を受け入れることにしました。なぜなら他のPFAS分析メソッドの基準は満たしていたため、OTM-45で求められている非常に厳しい±10%基準に無理に合わせる必要はないと考えたからです。また、校正結果は多くの他のメソッドでは許容範囲内であったこともあり、抽出などメソッドの他の部分を改善する方が価値があるとも考えました。もし±10%基準がドラフト版から最終版に引き継がれるならば、このメソッドを実施するラボではこのような判断が必要かもしれません。サンプルの特性をよく理解しているラボであれば、対象化合物リストや校正範囲を予想される成分に限定することで、±10%基準の達成が容易になるかもしれません。しかし、すべての化合物において±10%基準をクリアするのは多くのラボにとって厳しい課題になることは間違いないでしょう。

<第1回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 概要
<第2回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 クロマトグラフィに基づいた最適化
<第4回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 レジン洗浄
<第5回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 レジン抽出

Author

  • Jason Hoisington

    Jason Hoisington received his bachelor’s degree in general science with a focus on chemistry from the University of Alaska, Fairbanks. He worked for SGS Environmental for seven years in environmental soil and water testing, developing methods for the analysis of volatiles and semivolatile organics to include pesticides and polychlorinated biphenyls (PCBs). In 2012, Jason moved on to lab and application support for Dow Chemical Company, providing advanced analytical troubleshooting and method development. In 2019, Jason joined Restek and has focused on air applications.

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