最終更新日:2025年10月10日
OTM-45におけるレジン洗浄の重要性とは
このブログシリーズ第1回ではOTM-45の概要、第2回ではクロマトグラフィに基づいた分析条件の調整について、第3回ではメソッドが規定する校正要件とそれに関連する問題について説明しました。第4回はDionex ASE 350システムを使用したレジン洗浄手順について掘り下げていきます。
OTM-45が示すレジン洗浄の標準手順
まず、レジン洗浄について少しお話ししましょう。RestekはClean SDVBレジン(他メーカーの前洗浄済XAD-2レジンと同等)を提供しています。OTM-45はその付録において、Clean SDVBレジンや前洗浄済レジンを購入せずに未加工レジンを洗浄する場合の必要な手順概説を記載しています。以下は、微生物の増殖を防ぐためにXAD-2に添加された塩を除去し、使用前に完全にクリーンな状態にする手順です。まず、水に一晩浸漬し、以下4段階の抽出を行います。①熱水による8時間のソックスレー抽出、②メタノールによる22時間のソックスレー抽出、③塩化メチレンによる22時間のソックスレー抽出、④5%水酸化アンモニウムを含むメタノールによる22時間の最終ソックスレー抽出です。最後に、窒素を使って樹脂を乾燥させますが、この方法では500 gのXAD-2を乾燥させるのに、160 Lデュワー瓶分の液体窒素を一晩使う必要があると記載されています。これは、溶媒と窒素の使用に加え、ほぼ丸1週間分の作業量が必要であることを意味します。これほどの労力をかけるくらいなら、最初からRetekのClean SDVBレジンを選んで効率的に始めるべきではないでしょうか。
Clean SDVBレジンの利点と課題
とはいえ、RetekのClean SDVBレジンや他メーカーの前洗浄済XAD-2レジンにも、微量ですが残留PFASバックグラウンドが存在しないわけではありません。ただし、OTM-45付録に記載されているような未加工レジンの完全な洗浄を行う必要はなく、洗浄プロセスは簡易なものとなります。この簡易な洗浄プロセスに対して、Restekではレジンの洗浄と抽出の両方に高速溶媒抽出(ASE)を使用しました。このことは、2021年のNEMCでのプレゼンテーションにおいて発表しました。ASEはソックスレー抽出や振とう抽出の代替となるもので、他の方法よりもはるかに短時間で、ほとんど手を使わず、溶媒の使用量も大幅に削減できます。初回ASEのパラメータをTable 1に示します。
Dionex ASE 350パラメータ
- 圧力 – 1500 psi
- 温度 – 120° C
- 加熱時間 – 6分
- 静止時間 – 15分
- サイクル – 2
- リンス量 – 60%
- 溶媒 – 4:1 メタノール:アセトニトリル
Table 1 –レジンの洗浄と抽出のための初回ASE
初回ASE後のPFASバックグラウンドの測定結果
Clean SDVBレジンと前洗浄済XAD-2レジンにおいてASEによるクリーンアップ/抽出を試したところ、どちらにおいても以下3つのPFAS化合物について、かなり顕著なバックグラウンドが検出されました(Table 2参照)。
| 化合物名 | ASEブランク (ng/g) | XAD-2 (ng/g) | XAD-2 (ng/g) | XAD-2 (ng/g) | Avg. (ng/g) | Clean SDBVレジン (ng/g) | Clean SDBVレジン (ng/g) | Clean SDBVレジン (ng/g) | Avg. (ng/g) |
| PFBA | 0.05 | 0.54 | 0.51 | 0.60 | 0.55 | 0.43 | 0.35 | 0.43 | 0.40 |
| PF4OPeA | 0.09 | 0.10 | 0.11 | 0.10 | 0.10 | 0.63 | 0.45 | 0.53 | 0.54 |
| ADONA | <0.04 | 0.05 | 0.05 | 0.11 | 0.71 | 0.06 | 0.04 | 0.05 | 0.05 |
Table 2 – ASEクリーンアップ/抽出後のXAD-2レジンとClean SDVBレジンのブランク結果(「ASEブランク」は、装置のバックグラウンドを測定するための空のASEセル)
再洗浄(2回目のASE)による効果の検証
初回ASE後に検出されたバックグラウンドは、これ以上クリーンアップできないものなのかを確認するために、どちらのレジンも対しても2回目のASEを実行しました。その結果、Clean SDVBレジンでは、PFBAとPF4OPeAの濃度は大幅に低下し、ADONAについては変化が見られませんでした。また、XAD-2レジンでは、PFBAとADONAの濃度については低下が確認できた一方で、PF4OPeAの濃度は逆に上昇しました(Table 3参照)。
| 化合物名 | XAD-2 (ng/g) | XAD-2 (ng/g) | XAD-2 (ng/g) | Avg. (ng/g) | Clean SDBVレジン (ng/g) | Clean SDBVレジン (ng/g) | Clean SDBVレジン (ng/g) | Avg. (ng/g) |
| PFBA | 0.29 | 0.24 | 0.28 | 0.27 | 0.12 | 0.18 | 0.10 | 0.13 |
| PF4OPeA | 0.37 | 0.29 | 0.24 | 0.30 | 0.06 | 0.09 | 0.10 | 0.08 |
| ADONA | 0.71 | 0.25 | 0.30 | 0.42 | 0.05 | 0.08 | 0.04 | 0.06 |
Table 3 – XAD-2レジンとClean SDVBレジンの2回目のASE結果
レジンの性状が洗浄効率に与える影響
2回目ASE後であっても、比較的高濃度なPFASがXAD-2レジンでは検出されました。したがって、ASEによる抽出効率はClean SDVBレジンに比べて劣っていたと考えられます。その要因のひとつは、Clean SDVBレジンが乾燥しておりサラサラと流動性が高かったのに対し、XAD-2はやや湿っていて塊状になっていたことです(Figure 1参照)。この「湿り気」がPFASをより強く保持する原因になった可能性があります。また、この状態のXAD-2は作業性にも影響し、Figure 1からも分かるように、ASEセルへの充填作業もやや煩雑になっていました。

Figure 1 – Restek Clean SDVBレジンと前洗浄済XAD-2レジンの比較
改良版ASE手法による洗浄効率の最適化
NEMCでの発表後、Clean SDVBレジンからPFASを完全に除去できる、よりシンプルなASEによる洗浄専用手法を確立したいと考えるようになりました。検討を重ねた結果、結局変更を加えたのはより強力な洗浄効率を期待して、ジクロロメタン(MeCl2)とメタノールの混合溶媒を使用する点だけでした。この改良手法におけるASEのパラメータは、Table 4を参照下さい。
Dionex ASE 350パラメータ
- 圧力 – 1500 psi
- 温度 – 120° C
- 加熱時間 – 6分
- 静止時間 – 15分
- サイクル – 2
- リンス量 – 60%
- 溶媒 – 4:1 メタノール:MeCl2
Table 4 – Clean SDVBレジンの最終的なASE洗浄手法
この最終的なASE洗浄手法を用いても、残念ながら検出下限をわずかに超える量のPFDAが残ってしまいました(この限界に至った経緯については、後のブログで説明します)。洗浄後の全結果は、Table 5に示しています。
| ng PFAS/g レジン | ||
化合物名 |
MDL | ブランクAvg. |
|
PFBA |
0.06 |
<MDL |
|
PF4OPeA |
0.02 |
<MDL |
|
3:3 FTCA |
0.05 |
<MDL |
|
PFPeA |
0.03 |
<MDL |
|
PFBS |
0.07 |
<MDL |
|
PF5OHxA |
0.01 |
<MDL |
|
PFEESA |
0.01 |
<MDL |
|
3,6-OPFHpA |
0.02 |
<MDL |
|
4-2 FTS |
0.02 |
<MDL |
|
PFHxA |
0.02 |
<MDL |
|
PFPeS |
0.02 |
<MDL |
|
HFPO-DA |
0.22 |
<MDL |
|
PFHpA |
0.10 |
<MDL |
|
5:3 FTCA |
0.07 |
<MDL |
|
FHUEA |
0.06 |
<MDL |
|
PFHxS |
0.06 |
<MDL |
|
FHEA |
0.09 |
<MDL |
|
ADONA |
0.02 |
<MDL |
|
PFeCHS |
0.03 |
<MDL |
|
6-2 FTS |
0.02 |
<MDL |
|
PFHpS |
0.03 |
<MDL |
|
PFOA |
0.22 |
<MDL |
|
PFOS |
0.04 |
<MDL |
|
FOUEA |
0.07 |
<MDL |
|
PFNA |
0.06 |
<MDL |
|
FHpPA |
0.14 |
<MDL |
|
FOEA |
0.18 |
<MDL |
|
9Cl-PF3ONS |
0.03 |
<MDL |
|
L-PFNS |
0.18 |
<MDL |
|
PFDA |
0.05 |
0.07 |
|
8-2 FTS |
0.07 |
<MDL |
|
L-PFDS |
0.32 |
<MDL |
|
FDEA |
0.07 |
<MDL |
|
PFUnA |
0.08 |
<MDL |
|
11Cl-PF3OUdS |
0.04 |
<MDL |
|
FOSA-I |
0.13 |
<MDL |
|
10:2 FTS |
0.04 |
<MDL |
|
PFDoA |
0.10 |
<MDL |
|
PFDoS |
0.06 |
<MDL |
|
N-MeFOSA-M |
0.07 |
<MDL |
|
N-MeFOSE |
0.07 |
<MDL |
|
N-MeFOSAA |
0.05 |
<MDL |
|
PFHxDA |
0.05 |
<MDL |
|
N-EtFOSA-M |
0.17 |
<MDL |
|
N-EtFOSE-M |
0.05 |
<MDL |
|
N-EtFOSAA |
0.08 |
<MDL |
|
PFODA |
0.05 |
<MDL |
|
PFTrDA |
0.08 |
<MDL |
|
PFTA |
0.05 |
<MDL |
Table 5 – 洗浄後Clean SDVBレジンのPFASブランク結果
最終洗浄結果と残留PFASの考察
初回の洗浄後に確認されなかったPFDAがなぜここで検出されたのでしょうか?経験上、どんなラボにおいてもPFAS分析におけるコンタミネーション(汚染)は非常に予測が難しいです。以前のロットではPFASフリーだった溶媒や消耗品が、新しいロットではPFASを含んでいることもあるため、ブランクレベルを常に監視するべきです。PFASフリーなワークフローを維持するのは、まるで実験室版「モグラ叩きゲーム」のようなもの…ある日はボトルからPFBAが出てきて対応に追われ、別の日には溶媒に含まれていたPFBSを叩きに行く。このような状況が常ですから、49種類中1化合物のみがわずかにバックグラウンドとして検出されただけなら、もう次のステップである抽出試験に進んでもよいだろうと判断しました。この抽出試験については次回のブログでご紹介します。OTM-45で指定されている振とう抽出とASEによる抽出との比較を行う予定です。
<第1回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 概要
<第2回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 クロマトグラフィに基づいた最適化
<第3回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 校正
<第5回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 レジン抽出

