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PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 第5回:レジン抽出

13 Aug 2022

最終更新日:2025年10月10日

OTM-45における抽出工程のまとめ

今回はシリーズの最終回です。第1回ではドラフト版OTM-45 Methodの概要、第2回ではクロマトグラフィに基づく最適化、第3回では校正要件と結果、第4回ではレジン洗浄手法について説明しました。今回は、OTM-45がカバーする振とう抽出の代替として使用した高速溶媒抽出(ASE)についてさらに詳しく解説します。

振とう抽出の手順と使用溶媒量

ポリウレタンフォーム(PUF)やXAD-2タイプのスチレン-ジビニルベンゼン(SDVB)レジンなどの充填剤を使用するエアサンプリング法では、サンプル前処理にはソックスレー抽出がよく使用されます。ソックスレー抽出とは、ターゲット化合物を固形物から抽出するために、加熱した溶媒を連続的に還流させながら固体を洗い流す方法です。一般的に長時間かけて行われ、例えば、TO-13Aでは18時間の抽出が必要です。一方、OTM-45ではこれよりも簡便な方法として、抽出溶媒中で試料を振とうするだけの振とう抽出が採用されています。この方法は、特殊なガラス器具や加熱装置を必要とせず、よりシンプルなセットアップで実施可能です。しかし、抽出効率はソックスレー抽出より劣るとされているため、OTM-45ではこの効率の差を補うべく、16時間×2回=合計32時間の長時間振とうが実行されます。各振とうでは、5%アンモニア水メタノール溶液を180 mLずつ、合計360 mLが使用されます。最初のXADトラップ(Figure 1の容器#3)の抽出には、粒子フィルターとXADトラップ間の試料採取系を洗浄するための後半リンス液(Figure 1の容器#4)をそのまま利用します。もしこの後半リンス液の量が360 mLに満たない場合は、不足分を追加のアンモニア水メタノールで補います。一方、ブレークスルーXADトラップ(Figure 1の容器#7)は、アンモニア水メタノールで抽出されるものの、こちらには試料採取系の洗浄には使用されません。つまり、試料採取系でのレジン抽出には最低でも360 mLの非リンス溶媒が使用され、全体で720 mLの溶媒が消費されるということになります。

blog pfas in air part 5 resin extraction 01

Figure 1 – OTM-45試料採取系と容器

高速溶媒抽出(ASE)の導入とメリット

上記のような時間がかかり、多くの溶媒が必要な振とう抽出と比べ、ASEには多くの利点があります。ASEでは、加熱した溶媒を高圧下で使用しますが、これにより短時間かつ高効率な抽出が可能になります。ASEによるサンプル抽出で必要な所要時間は45分、使用する溶媒は100 mL未満です。これは、振とう抽出(所要時間32時間、使用溶媒360 mL)と比較して大幅な効率改善となります。ただし、ASEでは、溶媒リザーバーはすべてのサンプルに共通で使用されるため、後半リンス液(容器#4)をそのまま抽出溶媒として使うことはできません。そのため、後半リンス液は抽出後のブローダウン工程でASE抽出溶媒と合わせて処理する必要があります。ただし、両方のレジン画分(容器#3および#7)に対してASEにおいて使用される非リンス溶媒200 mLであり、振とう抽出における360 mLと比べて大幅に削減されています。総溶媒使用量に関しても、ASEでは560 mL(リンス溶媒360 mL+抽出溶媒200 mL)で済みますが、振とう抽出では合計720 mLが必要です。使用したASEのパラメータはTable 1に示しました。メタノール:アセトニトリル(ACN)4:1の混合液を抽出溶媒として使用しました。これは、メタノール単独では全体的に回収率が低く(データ未掲載)、ACNを多くしすぎると一部化合物で回収率が悪化した(データ未掲載)ためです。

Dionex ASE 350抽出パラメータ

  • 圧力 — 1500 psi
  • 温度 — 120°C
  • 加熱時間 — 6 minutes
  • 静止時間— 15 minutes
  • サイクル — 2
  • リンス量 — 60%
  • 溶媒 — 4:1 メタノール:アセトニトリル

Table 1 – ASE抽出パラメーター

ASEと振とう抽出の抽出効率の比較

このようにASEでは抽出時間や溶媒使用量が改善されました。ただし、抽出そのものの性能が振とう抽出と同等またはそれ以上でなければ意味がありません。ASEと振とう抽出との性能における最も顕著な違いを、「生データ(ピーク面積値)」で確認してみましょう(Figure 2参照)。ASEで得られたピーク面積は振とう抽出で得られたピーク面積の142%から最大5495%にまで及び、ほとんどの化合物では200〜500%となっています。つまり、レジンマトリックスから抽出されたPFASのほとんどは、振とう抽出よりもASEの方が2~5倍抽出効率が高かったということです。

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Figure 2 – ASE:振とう抽出  抽出効率(ピーク面積)の比率

スパイク回収率に見る性能差

ほとんどの化合物において、ASEによる抽出効率の方が優れていましたが、同位体希釈法を使用したことにより、振とう抽出とASEの回収率の差は一見同じようにも見えています。それぞれの抽出結果はFigure 3に示した通りです(青がASE、赤が振とう抽出)。特に回収率が極端に高い、または低い外れ値となった一部の化合物には、同位体標準物質が存在しませんでした。したがって、ターゲット化合物と内部標準物質との抽出効率の差が補正し切れていません。これが精度低下の要因になったと考えられます。とはいえ、ASEによる抽出効率が高いことで、振とう抽出では回収率が低かった3:3 FTCAやMe-FOSA、Et-FOSAといった化合物も、ASEでは回収率が大幅に改善されました。

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Figure 3 – ASEと振とう抽出のスパイク回収率

再現性評価:ASEの優位性

再現性に関しても、ASEによる抽出は振とう抽出を上回る結果を示しました。49化合物のうち40化合物が規定の基準を満たしましたが、基準未達となった化合物の多くは、対応する正確な同位体希釈標準物質が存在しなかったものです。したがって、同位体希釈標準物質の選定を改善すれば、結果もさらに改善される可能性があります。また、Figure 4に示すように、後期に溶出する化合物ほど、振とう抽出での相対標準偏差(% RSD)がASEに比べてかなり高くなる(ばらつきが多くなる)傾向があります。これは、振とう抽出が長鎖PFAS化合物に対して抽出の一貫性を保つのが難しい可能性を示唆しています。

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Figure 4 – ASEと振とう抽出の相対標準偏差(%RSD)

ASEによる抽出は、OTM‑45で規定されている振とう抽出の代替手法として極めて有効であることが明らかになりました。時間短縮と溶媒使用量の削減を同時に実現しつつ、抽出結果全体でも良好な成果を示す手法であると言えるでしょう。

<第1回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 概要
<第2回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 クロマトグラフィに基づいた最適化
<第3回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 校正
<第4回> PFAS排ガス分析の基準 OTM-45 レジン洗浄

全5回シリーズのブログを通して、OTM-45への理解は深まりましたでしょうか?メソッドが変わっても、分析中の躓きの際にヒントになるようなアイデアもあったのではないかと思います。ご感想やご質問、こんな事をもっと知りたい!等については是非こちらまでお寄せください。Restekでは、より良いクロマトグラフィを得るためにRestekの技術がサポートできることを常に探求しています!

Author

  • Jason Hoisington

    Jason Hoisington received his bachelor’s degree in general science with a focus on chemistry from the University of Alaska, Fairbanks. He worked for SGS Environmental for seven years in environmental soil and water testing, developing methods for the analysis of volatiles and semivolatile organics to include pesticides and polychlorinated biphenyls (PCBs). In 2012, Jason moved on to lab and application support for Dow Chemical Company, providing advanced analytical troubleshooting and method development. In 2019, Jason joined Restek and has focused on air applications.

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