時々伺う、顧客からの言葉です。「ディレイカラムの必要性を感じたことがない。なくても何の問題もなかったからね。」
そんなケースもあるでしょう。例えば、高濃度でPFASに汚染された土壌サンプルの場合などは、最終的に得られる結果に、PFASのコンタミネーションによる干渉はほとんど影響を与えないため、ディレイカラムがなくても問題ない場合があります。
しかし、これからお見せするクロマトグラムから、ディレイカラムの有無でPFASの分析結果が異なると知ったら、このような言葉は出てこなくなるかもしれません。
上段のクロマトグラムは、ディレイカラムなしでブランクサンプルを注入した分析結果です。サンプルに含まれる各PFASは想定通りの保持時間に鋭い形状のピークを形成しています。各PFASが低濃度でサンプルに含まれている場合、ディレイカラムなしではどのようなクロマトグラムとなるか想像できますか?


下段のクロマトグラムは、ディレイカラムありでブランクサンプルを注入した分析結果です。鋭い形状のピークがなくなっていますが、「遅延したピーク」はどこにあるか分かりますか?目的化合物は想定される保持時間にピークを形成していますが、その後にある高いシグナルはディレイカラムよって保持された、システム由来のPFASのものです。
忘れないで頂きたいのは、PFASディレイカラムはLC-MS/MSワークフローにおいてインジェクタの前に取り付けられているということです。つまり、システム由来のPFASは移動相のボトルからまずディレイカラムを通過し、その後分析カラム、検出器へと流入していきます。グラジエントを開始する前に分析成分を分析カラムのヘッド部分に凝集させるサンプルの注入方法と異なり、干渉成分は継続的に発生し、ディレイカラムを通過する際に保持され、インジェクタを通過する間に希釈され、分析カラムでさらに保持されます。このようにどの段階においても必ずしも凝集されることがないため、ピーク形状はブロードになり、高いベースラインシグナルとなります。
ご覧の通り、遅延した干渉成分のピークは広がっていますが、これは干渉成分がシステムに継続的に流入しているためです。シグナルは鋭いピークを形成せず、持続的に高いベースラインとして現れます。なぜなら、干渉成分は分析ワークフローの冒頭(移動相)から常に存在しており、分析成分のように分析カラムのヘッド部分に凝集しないからです。遅延して現れるシグナルの強度は、LCカラムの平衡化時間によって大きく変わります。カラムを十分に平衡化することで、システム内部の各種部品から溶出する干渉物質がディレイカラムに保持される量が変わるためです。また、使用するLC-MS/MSシステムの構成部品の材質によっても、システム由来の干渉の度合いに違いが生じます。
システム由来の干渉を軽減する手段としては、PFASが溶出しやすいプラスチック部品を、PFASの溶出が極めて少ないPEEK製などPFASフリーの部品に交換する方法が挙げられます。しかし、LC-MS/MSシステムごとに交換が必要な部品が異なるため、この対応だけでバックグラウンド干渉を完全に排除することは困難です。また、全パーツの交換には多くの時間と労力を要し、未知の干渉源の発見でさらに分析が難航する可能性も否定できません。
実際のPFAS分析では、軍用基地の汚染土壌や消防訓練場などで採取された高濃度サンプルを扱うケースと、飲料水など極めて低濃度(pptレベルまたはそれ以下)サンプルからの検出が必要なケースが混在します。
使用するLC-MS/MSシステムや扱うサンプル濃度レベルに関わらず、分析の信頼性向上と作業効率の観点から、インジェクタの前、つまりワークフローの冒頭にPFASディレイカラムを取り付けることが有益です。これにより、メソッド開発およびバリデーションの段階、さらに日々の分析業務において、不必要な干渉トラブルの軽減と安定した結果取得が期待できます。

