- 面倒な誘導体化や煩雑なイオンペア試薬の使用は不要
- 移動相の簡単な変更だけで保持モードを切り替え可能で、平衡化も短時間で完了
- LC-MS分析での検出感度と選択性の向上に最適
極性化合物分析をシンプルに
液体クロマトグラフィーによる極性化合物の分析は、これまで長らく困難とされてきました。保持時間やピーク形状の悪化、MSに適さない複雑な移動相、長時間にわたる平衡化、感度低下、さらにはサンプル誘導体化の必要性など、多くの課題が分析効率やラボの生産性を低下させてきたのです。そこで、クロマトグラフィーの真のポテンシャルを発揮させ、上述の問題を解決すべく新たに開発したのが、幅広い極性化合物の分析に特化したLCカラム、Raptor Polar Xです。
クロマトグラフィー分析における固定相の重要性
メソッド性能において最も重要でありながら、意外と理解されていない要素のひとつが、目的に適した固定相を選択することの重要性です。通常の逆相カラムでは、極性化合物の保持や分離が難しいため、複雑な移動相の使用や、目的成分とカラム間の効果的な相互作用を補うためのサンプル誘導体化などが必要となることがあります。しかし、目的成分に最適な固定相を使えば、簡単な前処理で時間・コストを削減し、エラーのリスクも軽減できます。
Raptor Polar X固定相は、2つの保持メカニズム(HILICとイオン交換)のバランスにより、極性化合物を選択的に保持するように特別に設計されています。この独自のハイブリッド固定相は、特に質量分析計との組み合わせで行う、多種多様な極性化合物分析に最適です。RestekのRaptor Polar Xの分離性能で極性化合物の分析をシンプルなものにしませんか?
2つの保持メカニズムの融合による相乗効果
極性化合物の保持に一般的に用いられるのは、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)とイオン交換という2つの保持メカニズムです。Restekが開発した新しい固定相では、これらの保持モードを単一リガンドに統合しています。この独自のリガンドは多孔質粒子の表面に結合しているため、Raptor Polar Xカラムは多様な極性分析成分を安定的に保持し、高い分離効率を発揮します。
従来の特定用途向けカラムでは、一方の保持モードを優先することで他方の性能が低下し、特定の極性化合物のみが良好に保持される傾向がありました。これに対し、Raptor Polar Xカラムの固定相(特許出願中)では、2つの独立した保持メカニズムを同時に活用できるため、バランス良く柔軟な保持が可能です(Figure 1参照)。また、移動相条件の簡単な調整だけで保持モードを簡単に切り替えることができ、使用前やサンプル間での平衡化が長時間に及ぶことなく、目的の化合物に最適な条件へ短時間で移行できるのも特徴です。

保持モードの切り替えメカニズム
高有機溶媒(水に対するアセトニトリルの割合が比較的高い)移動相を使用した場合、シリカ表面に素早く水層が形成され、極性化合物はその水層に分配されます。水層への分配により、極性化合物はシリカ表面に結合したリガンドとの間で効果的な相互作用が生じます(Figure 2参照)。Raptor Polar Xが採用している新しいリガンドは、この保持機構をさらにシンプルにし、これまでにない速さでのカラムの平衡化・再平衡化を可能にします。その結果、新しいカラムでもすぐに使用可能で、サンプル間の再平衡化に必要な時間が短縮され、サンプルスループットも向上します。

高有機溶媒(アセトニトリル)移動相条件下では、分子量の小さい極性化合物において、分析対象成分と固定相表面との間に強い相互作用が生じ、優れた保持が得られます。特に、極めて極性が高く電荷を帯びた低分子化合物でも良好な保持を示します。保持時間をさらに最適化したい場合は、移動相中の水の割合を段階的に増やすだけで対応できます。水分含量を増やすことで、荷電した極性化合物は徐々に移動相側へ移動しやすくなり、効率的な溶出が実現されます。また、移動相の水分比率を高めていくと、HILICに典型的な「水層への分配」による保持メカニズムは次第に弱まり、代わって固定相が持つイオン交換特性が主要な保持メカニズムとして働くようになります(Figure 3参照)。

保持モード切り替えの実例
本原理の実際的な挙動を示すために、Figure 4では、2種類の代表的な極性化合物が固定相とどのように相互作用し、移動相組成の変化によってそれらの保持やレスポンスがどのように変化するかを比較しています。具体的な例として、有機酸であるビタミンB3(ナイアシン)と、永久的な正電荷を持つビタミンB1(チアミン)という、異なる極性・電荷特性を持つ2種類の水溶性ビタミンを分析対象としました。
上段にあるクロマトグラムは、HILIC分離に適した高有機触媒(アセトニトリル)移動相条件で取得されたものです。この条件下でRaptor Polar Xカラムを使用すると、シリカ粒子の表面に速やかに水層が形成されます。これにより、極性化合物はアセトニトリル移動相から水層へと分配され、シリカ表面および固定相との相互作用を通じて保持されます。このようにして、極性化合物は固定相との親水性相互作用によって保持されながらも、高有機溶媒条件下のままでもスムーズに溶出が可能です。加えて、このような高有機溶媒条件は、脱溶媒効率やイオン化効率の向上にも寄与するため、LC-MS/MS分析に、非常に適した条件と言えます。
一方、下段のクロマトグラムは、移動相中の水の割合を増やし、保持メカニズムがHILICからイオン交換へと徐々に切り替わる条件で取得されました。水分比率の上昇に伴い、水層への分配に支配されたHILIC的な保持は弱まり、固定相のイオン交換特性による保持が優勢となります。その結果、ビタミンB1、ビタミンB3ともに保持が弱まり、特にビタミンB1(正電荷)はイオン交換において保持されにくくなるため、溶出順序にも変化が生じます。
バランスのとれたハイブリッド保持メカニズムで、多様な極性化合物を単一メソッドで分析
一般的なカラムは特定の相互作用に特化し、他の保持メカニズムを排除するように設計されています。このアプローチは、ターゲット分析成分の性質が似ている場合は有効です。しかし、極性化合物は幅広い化学的特性を持ちます。そのため従来は、化合物の種類ごとに異なるカラムや条件を用い、複数のメソッドを使い分ける必要がありました。一方、Raptor Polar Xカラムのハイブリッドな固定相の保持メカニズムはマルチモードであるため、多様なターゲット分析成分を単一メソッドで一斉分析できます。以下にその例を示します。
QuPPeメソッドにインスパイアされた極性汚染物質リスト
欧州QuPPe(Quick Polar Pesticides)メソッドが分析対象とするのは、グリホサートや関連化合物といった陰イオン性の極性除草剤から、クロレートやパークロレートなどのさまざまなオキシクロロ系汚染物質に至るまでの幅広い極性化合物です。Figure 5に示すように、Raptor Polar Xカラムでは、こうした多様な極性化合物混合物を保持し、迅速に分離することが可能です。もっとも保持の強い化合物でも約10.5分で溶出し、トータルの分析時間はわずか13分です。この分離は、0.5%ギ酸で酸性条件とした非緩衝系のシンプルな移動相を用いて実施されており、ピークの拡がりやテーリングの抑制にも寄与しています。Figure 5に示した分析条件で、AMPAとN-アセチルAMPA、またホセチルアルミニウムとリン酸およびリン酸(一部のマトリクス中に一般的に含まれ、干渉源ともなる)といった、同じようなマスフラグメントを有する化合物同士についても分離が可能であることが確認されました。
Figure 5に示したRestekが開発したメソッドに加え、Raptor Polar X分析用カラムとガードカラムはそれぞれ評価され、QuPPeメソッドに採用されています[1]。また、ネガティブESIモードのLC-MS/MSによる多様な極性農薬の検出メソッドでも使用されています。
非誘導体化アミノ酸の直接分析
アミノ酸は非常に極性が高く多様な構造を持ちます。したがって従来は、前処理または後処理での誘導体化を伴う、逆相クロマトグラフィーやイオン交換クロマトグラフィーでの分析を行っていました。誘導体化を行わないと、保持が弱く、クロマトグラフィーとして十分な分離が得られにくいという課題があったからです。しかし、Raptor Polar Xカラムを使えば、誘導体化を行わなくても、非極性、極性、正電荷、負電荷のいずれの側鎖を持つどんなアミノ酸も、単一のメソッドでしっかりと保持し、明瞭に分離することができます。Figure 6では、液状の乳児用調製粉乳マトリクス中のタウリンなどを含む21種類のアミノ酸の分析を、シンプルなたんぱく質沈殿で得られた抽出物の直接分析で行った例が示されています。
超短鎖PFASから長鎖PFASまで
Raptor Polar Xカラムの持つ保持特性と汎用性は、メソッドの生産性を最大限に引き出すだけでなく、将来の分析課題にも対応可能な柔軟性を備えています。その代表的な応用例が、ペルおよびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)の高度な分析です。現在広く用いられているLC-MS/MSによるPFAS分析メソッドは、主に短鎖(C4–C6)および長鎖(C8以上)PFAS、およびいわゆる代替型PFASに焦点を当てており、C2およびC3の超短鎖PFASは対象外となっていることがほとんどです。しかし、これらの超短鎖PFASは環境中での存在が報告されつつあり、今後の規制やモニタリングにおいて重要な分析対象となる可能性があります。超短鎖PFASの分析において、従来の逆相LC法では保持が不十分であり、十分な検出感度や分離を得にくいという課題があります。一方、陰イオン交換クロマトグラフィーを用いる手法では、逆に保持が強すぎて溶出が遅れ、全体のクロマトグラフィー性能が低下する傾向があります。これに対して、Raptor Polar Xカラムは、親水性相互作用(HILIC)とアニオン交換モードを融合させた独自の保持メカニズムを備えており、超短鎖から長鎖にわたる多様なPFAS化合物を単一条件で効率的に分離することが可能です。Figure 7に示されるように、このカラムでは超短鎖および長鎖のPFASを、たった5分間のイソクラティック条件で高分離かつ迅速に分析することができます。

LC_EV0569
Peaks
| Peaks | tR (min) | Conc. (ng/L) | Precursor Ion | Product Ion | |
|---|---|---|---|---|---|
| 1. | 11-Chloroeicosafluoro-3-oxanonane-1-sulfonate (11CL-PF3OUdS) | 1.25 | 400 | 630.78 | 450.80 |
| 2. | 9-Chlorohexadecafluoro-3-oxanonane-1-sulfonate (9Cl-PF3ONS) | 1.34 | 400 | 530.78 | 350.85 |
| 3. | Perfluorooctanesulfonic acid (PFOS) | 1.38 | 400 | 498.84 | 79.97 |
| 4. | Perfluorohexanesulfonic acid (PFHxS) | 1.49 | 400 | 398.90 | 79.97 |
| 5. | Perfluorobutanesulfonic acid (PFBS) | 1.64 | 400 | 298.97 | 79.97 |
| 6. | Perfluoropropanesulfonic acid (PFPrS) | 1.73 | 400 | 248.97 | 79.98 |
| 7. | Perfluoroethanesulfonic acid (PFEtS) | 1.86 | 400 | 198.98 | 79.92 |
| Peaks | tR (min) | Conc. (ng/L) | Precursor Ion | Product Ion | |
|---|---|---|---|---|---|
| 8. | Hexafluoropropylene oxide dimer acid (HFPO-DA) | 2.06 | 400 | 284.97 | 168.92 |
| 9. | Perfluorooctanoic acid (PFOA) | 2.11 | 400 | 412.90 | 368.91 |
| 10. | Ammonium 4,8-dioxa-3H-perfluorononanoate (ADONA) | 2.15 | 400 | 376.90 | 250.93 |
| 11. | Perfluorohexanoic acid (PFHxA) | 2.36 | 400 | 312.97 | 268.90 |
| 12. | Perfluorobutanoic acid (PFBA) | 2.76 | 400 | 212.97 | 168.97 |
| 13. | Perfluoropropionic acid (PFPrA) | 3.06 | 400 | 163.03 | 119.01 |
| 14. | Trifluoroacetic acid (TFA) | 3.77 | 400 | 113.03 | 69.01 |
不動態化は必要?不要?
グリホサートはLCシステム内の金属とキレート結合しやすいため、微量レベルでの分析が困難な場合があります。Raptor Polar Xカラム自体は、サンプルが通る流路に特別な処理が施されており、研究室に届いた時点ですぐに使用できる状態ですが、LCシステム全体のサンプル流路には金属部品が含まれているため、不動態化処理を行うことで分析性能をさらに向上できる可能性があります。実際に不動態化が必要かどうかは、使用するアプリケーションや装置の構成によって異なります。しかし、グリホサートのようにキレート化することが分かっている極性化合物を対象とする分析では、Restek社は分析を開始する前にLC Passivation Solution(cat.# 32475)による処理を推奨しています。
定評あるRaptor品質を継承した新しい固定相
Raptor Polar Xカラムは、従来のRaptorカラムが高品質の代名詞として築き上げてきた信頼性を基盤に、最新の設計・製造・試験基準に基づいて開発された新しい固定相です。たとえば、ホウレンソウのような複雑なマトリクスを含む実試料においても、注入ごとに安定した性能を発揮する堅牢性(Figure 8参照)や、長期使用後にカラムを交換する際にも安心して使える高いカラム間の再現性(Figure 9参照)など、Raptorブランドならではの信頼性をしっかりと受け継いでいます。さらに、Raptor Polar Xカラムに採用された単一リガンドによるハイブリッド保持機能は、すべてのカラムにおいて一貫した性能を実現し、大量の水注入のような過酷な条件下でも固定相の脱落が起こりにくいという特長も備えています。
Raptor Polar Xカラム:極性化合物分析に革命をもたらす新世代LCカラム
保持不足、低い応答感度、複雑な前処理 ― 極性化合物の分析は、これまでデータの信頼性やラボ全体の生産性において多くの課題を抱えてきました。Raptor Polar Xカラムは、こうした長年の課題に対し、新しい固定相により根本的な解決策を提示します。このカラムの核となるのは、HILIC(親水性相互作用クロマトグラフィー)とイオン交換という保持メカニズムを単一リガンドに統合したという設計です。この独自のリガンドを、表面多孔性粒子(SPP)に結合することで、Restekは多様な極性を持つ極性化合物を保持し、効率的に分離する新たな固定相を開発しました。これらの特徴が生み出す相乗効果により、Raptor Polar Xカラムは、複雑で多様な極性化合物をシンプルかつ高感度に分析する能力を実現し、多様な業界のLC分析者にとって強力かつ汎用性の高いソリューションを提供します。
参考文献
- M. Anastassiades, A.-K. Wachtler, D. I. Kolberg, E. Eichhorn, H. Marks, A. Benkenstein, S. Zechmann; D. Mack, C. Wildgrube, A. Barth, I. Sigalov, S. Görlich, D. Dörk, G. Cerchia, Quick method for the analysis of highly polar pesticides in food involving extraction with acidified methanol and LC – or ICMS/MS Measurement – I. Food of Plant Origin (QuPPe-PO-Method)–Version 12 (published on EURL-SRM website on July 23, 2021). https://www.eurl-pesticides.eu/docs/public/tmplt_article.asp?LabID=200&CntID=1115&Theme_ID=1&Pdf=False&Lang=EN






