<シリーズ詳細>
第1回:制度改正の背景とPFOS・PFOAの発生源リスクを正しく理解する
第2回:PFOS・PFOAが与える健康・環境影響と水質基準の科学的根拠
第3回:PFAS分析に求められる技術基準と留意点
第4回:PFAS分析を支えるRestek製品と最新メソッドの導入事例
■ 制度改正の背景:PFASを巡る国際的動向と国内の対応強化
PFASは、その高度な化学的安定性と撥水・撥油性から、数十年にわたって様々な工業製品や消火剤、コーティング材などに使用されてきました。一方で、その環境中での難分解性(Persistent)、生体蓄積性(Bioaccumulative)、有害性(Toxic)が徐々に明らかとなり、世界各国で規制の強化が進んでいます。特にPFOSおよびPFOAに関しては、OECDやUNEPの下で「POPs(残留性有機汚染物質)」として国際的な削減・廃絶の対象とされており、米国、EU、韓国、オーストラリアなどでは水道水や地下水に対して厳しい基準値が導入されています。こうした国際的な動向に加え、日本国内でも以下のような事案が、PFASに対する社会的関心と規制強化の背景として挙げられます:
- 自衛隊基地や工場周辺における地下水・河川・土壌のPFOS/PFOA高濃度汚染の報道・住民調査の増加
- 各自治体による独自のPFASモニタリングと対策要求の高まり
- 食品安全委員会や国立環境研究所による毒性評価や環境動態に関する新たな科学的知見の蓄積
こうした状況を受けて、厚生労働省および環境省は、PFOSおよびPFOAを暫定目標値から正式な水質基準項目および指針値へ格上げすることを決定しました。水道法施行規則等の改正により、令和8年(2026年)4月1日から、水道水中のPFOS+PFOA合算で50 ng/L以下という新たな基準値が適用されることとなりました。この改正は、単なる数値基準の変更にとどまらず、PFASの分析・モニタリング体制そのものを見直す必要性を突きつけるものでもあります。これまで一部の自治体や研究機関が独自に進めていたPFAS測定が、今後は全国的な「義務化された制度運用」として本格化することになり、分析精度、検出限界、装置構成、前処理技術、標準物質の品質など、あらゆる分析要素の再点検と再構築が求められています。

■ PFOS・PFOA の発生可能箇所と水環境への流入経路
PFOSおよびPFOAは、過去に広範な産業用途で利用されてきた背景から、既存インフラや周辺環境に広く残留している可能性があります。これらは使用時だけでなく、老朽化・劣化・廃棄処理・洗浄・火災訓練などの場面でも環境中へ再放出されるリスクがあり、水道水源の汚染経路となり得ます。以下に、特にPFASが水環境へ流入しやすいとされる主要な発生源および経路を整理します。
| 発生箇所 | 想定される流入経路・リスク |
| 消火設備(AFFF型泡消火剤) | 訓練時・実稼働時の泡剤散布、消火施設からの残留溶出。PFAS 含有泡剤は近年まで広く使用されていたため、消防施設周辺の地下水汚染も報告あり。 |
| 工業系排水・製造工程 | 特定の撥水・撥油製品、表面処理材、メッキ、半導体洗浄等でPFASが使用・生成される場合、洗浄排水や副生成物からの漏出が懸念される。 |
| 土壌・汚泥からの浸出 | 廃棄物埋立地、下水汚泥施用地など、過去に蓄積されたPFASが長期間にわたり地下水へ浸出するケースがある。 |
| 撥水・撥油性材料、フッ素樹脂加工部品等 | 製品老朽化、摩耗、洗浄工程を通じて、製品中の残留 PFAS が水系へ流出する可能性あり。製造・解体現場等で特に注意が必要。 |
| 浄水処理施設(活性炭など吸着材) | 吸着材の種類や寿命によって、吸着性能が劣化した場合にPFASが処理水中へ再放出される可能性がある。交換管理や材質選定が重要。 |

PFOS、PFOAの実態が分かったと思います。
次に知って頂きたいのは、第2回:PFOS・PFOAが与える健康・環境影響と水質基準の科学的根拠です。

