<シリーズ詳細>
第1回:制度改正の背景とPFOS・PFOAの発生源リスクを正しく理解する
第2回:PFOS・PFOAが与える健康・環境影響と水質基準の科学的根拠
第3回:PFAS分析に求められる技術基準と留意点
第4回:PFAS分析を支えるRestek製品と最新メソッドの導入事例
■ PFOS・PFOA の健康影響および環境リスク
PFOSおよびPFOAは、自然界での分解が極めて困難であり、かつ生体内での蓄積性が高いことから、近年の毒性評価・疫学研究により、次のような影響が報告・示唆されています。

<主な特性と環境へのリスク>
| 特性 | 内容 |
| 難分解性(Persistence) | 一般的な環境条件下では化学的に安定で、長期間にわたり水・土壌中に残留。焼却処理でも分解に高温が必要。 |
| 生体蓄積性(Bioaccumulation) | ヒトを含む哺乳類や魚類において、血中・肝臓・母乳等に蓄積。半減期は数年に及ぶとされる。 |
| 長距離移動性(Mobility) | 極めて高い水溶性と低吸着性により、地下水・河川を介して広範囲に拡散。河川流域を越えて検出される例も。 |
<健康影響(指摘されている主な項目)>
- 発がん性の可能性(IARC:PFOAを「2B=ヒトに対する発がん性があるかもしれない」に分類)
- 肝機能障害、脂質代謝異常
- 生殖毒性・胎児発育への影響
- 免疫機能抑制、ワクチン応答の低下
- 内分泌かく乱作用の可能性
■ 水質基準の科学的根拠:50 ng/Lを設定した複数の要素
PFOSおよびPFOAに対する水質基準値「合算で50 ng/L」という数値は、単に海外の規制値を模倣したものではなく、食品安全委員会による最新の健康リスク評価と、実際の水道水中濃度の分布、分析技術の限界、国際的整合性など、複数の要素を総合的に勘案したうえで設定されています。
| 項目 | 内容 |
| 毒性評価 | 耐容一日摂取量:人が、水の飲用以外の経路からの摂取を含め、一生涯に渡って摂取し続けても、健康への悪影響がないと推定される、体重1 Kg当たり、1日当たりの物質の摂取量。 |
| TDI | 令和6年6月に内閣府食品安全委員会が、諸外国・機関が行った評価の中で使用された根拠資料を含めて評価した上で評価書を取りまとめ、それぞれ耐容一日摂取量(TDI)が示された➡①PFOSについては、20 ng/kg/day :児動物における体重増加抑制 ②PFOAについては、20 ng/kg/day :胎児の前肢及び後肢の近位指節骨の骨化部位数の減少、雄の児動物の性成熟促進 |
| 水の飲用に係る割当率 | 水の飲用以外の経路からPFOS等が摂取されることも見越して、その分、水の飲用からの摂取量をどの程度まで抑制しておく必要があるかを設定した数値。 |
| 基準値 | ①PFOS、PFOAそれぞれ50 ng/L ②水質基準値はより安全側にPFOSとPFOAの合算で50 ng/L |
■「合算値」設定の理由と意義
水質基準では、PFOSおよびPFOAを個別ではなく「合算値」で評価する方式が採用されています。これは、以下の科学的・制度的背景を反映したものです。
| 観点 | 内容 |
| 毒性メカニズムの類似性 | PFOSとPFOAは共にPFCs(パーフルオロ化合物)に属し、体内動態や毒性発現経路が類似しているため、合算でリスク評価可能と判断。 |
| 分析の実務性 | 多くの分析手法(例:EPA Method 533)では、PFOSとPFOAを同時に検出・定量できるため、実務上の検査容易性・再現性にも配慮した設計。 |
| 累積的ばく露の管理 | 実環境中では、両者が併存しているケースが多く、「合算値」での管理が実際的なリスク抑制に有効。 |
リスクや検査基準のポイントを把握できたら、次に押さえておくべきは実際の分析に何が必要か、になるでしょう。こちらからご確認下さい。☞第3回:PFAS分析に求められる技術基準・検査制度と留意点


