EPA Method 1633Aの前処理で知っておくべき実務のコツ
私は技術サービス担当として、日々お客様からの問い合わせ対応に加え、消耗品や装置のトラブルシューティング、製品選定、さらには分析上の課題解決など、さまざまな技術支援業務に取り組んでいます。2025年2月、幸運にも社内のサバティカル(自己研鑽)プログラムに参加する機会を得て、一定期間ラボに身を置き、実験業務に専念することとなりました。いわば「現場復帰」ともいえるこの期間に、私は現在注目されている分析手法のひとつであるEPA Method 1633Aに取り組むことになりました。このメソッドは、水、土壌、バイオソリッドといったさまざまなマトリックス中のペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物(PFAS)を高感度で検出するために設計されたものです。
本稿では、私がこのプログラムを通じて得た知見をもとに、EPA Method 1633Aにおけるサンプル前処理の実務的なポイントを、現場目線でご紹介したいと思います。
EPA Method 1633Aとは
EPA Method 1633Aは、排水、表層水、地下水、土壌、堆積物、バイオソリッド、魚の組織など、さまざまな環境マトリックス中の40種のPFASを対象とする、パフォーマンスベースの分析メソッドです。PFASは極めて安定しており環境中に長期間残留する性質から、「永遠の化学物質」とも呼ばれます。Method 1633Aは、それらを1兆分の1(ppt)レベルで検出可能な高感度の手法であり、規制当局・環境分析ラボから非常に高い注目を集めています。
しかし、その精緻な分析に不可欠なサンプル前処理は、化学の知識があっても習得に時間がかかると、実務を通じてそのハードルの高さを痛感しました。
導入段階におけるPFAS分析ラボでの実務上の注意点と学び
私は合成化学のバックグラウンドを持ち、これまで製薬系および大麻検査ラボで多くの分析業務に携わってきました。しかし、固相抽出(SPE)についてはほとんど経験がなく、最初の数日は慣れない工程に戸惑う場面も多く、謙虚さと多くの学びに満ちた時間でした。特に、以下のポイントについては、実務を通して深く理解する必要がありました。
押さえるべきポイント:
• サンプル取り扱いの基本 – 使用する容器ひとつにも注意が必要です。PFASは一部のプラスチックやPTFE製品から溶出する可能性があるため、容器や実験器具の材質選定は極めて重要です。
• 汚染管理(コンタミネーションコントロール) – これは単に作業環境を「清潔」に保つというレベルではありません。PFASコンタミは至る所で発生します。環境マトリックス中のPFAS分析において、ブランクサンプルやスパイクサンプルを設定することは、データの信頼性を担保するために不可欠です。
• 溶媒の取り扱いとpH調整 – 抽出効率に影響するpH管理は非常に重要です。pHが適正範囲から外れると、前処理の段階で対象化合物の一部が失われる可能性があります。
• 固相抽出(SPE) – SPEカートリッジのコンディショニング、流速制御、乾燥方法など、一連の操作は極めて繊細です。乾燥が不十分だと水分が残り、過乾燥では回収率が低下します。最適な設定は経験を通してしか知り得ない、このメソッドの最も重要な工程でした。
マトリックスとカートリッジ選定
数か月間、稼働中のラボに参加すること自体は難しくありませんでしたが、常駐しているサンプル前処理チームにとっては、私を受け入れるための事前の計画と準備が必要でした。
私がサバティカルを開始した頃、異なる環境マトリックスに最適なカートリッジの選定と、前処理フローの改善を目的とした、あるプロジェクトが進行中だったからです。
前処理ラボでは以下の3種類のSPEカートリッジを比較検討していました。
◦ WAX単独カートリッジ
◦ 積層型カートリッジ(WAX + CarboPrep Plus)
◦ フィルターエイドを含むPFASデュアルベッド型カートリッジ
それぞれのカートリッジは、保持特性やろ過効率がマトリックスごとに大きく異なります。そのため、対象に応じたカートリッジの選定とプロセス制御が不可欠であることを学びました。
Method 1633AによるLC-MS/MSを用いたPFAS定量
EPA Method 1633Aは、LC-MS/MS(液体クロマトグラフィー–タンデム質量分析)を用いてPFASを定量します。幸い、私がラボに入った時点でこのメソッドはすでに確立されており、すぐに運用可能な状態でした。とはいえ、自分の手でLCサンプルを扱うのは約5年ぶりだったので、そのプロセスを再確認しながら、最新の装置と操作手順に改めて向き合う必要がありました。
忍耐と注意力が要求される業務:
最も印象的だったのは、この業務の緻密さです。近道は存在せず、一つひとつの工程を丁寧に積み重ねるしかありません。使用するメタノールのグレードからサンプルの回収容器の種類に至るまで、すべての要素が結果に影響を与える可能性があるからです。
現場経験から見えたEPA Method 1633Aの実務課題と技術サポートへの活かし方
現在、私は技術サービスの業務に復帰していますが、以前のように単にEPA Method 1633Aについて説明するだけではなくなりました。今は、このメソッドを実際に現場で扱った経験をもとに、お客様の課題や悩みにより深く寄り添えるようになっています。たとえば、マトリックス由来でSPEカートリッジに目詰まりが発生することや、真空マニホールドの流速制御に手を焼くこと。さらには、回収率に直結するpH調整や溶媒管理の難しさなど。現場に立つまで想像できなかった細かな「つまずき」を実際に体験できたからこそのサポートができているはずです。
このサバティカルは、分析メソッドの背後にある「人の作業」のリアルを思い出させてくれました。誰かがサンプルを粉砕し、フローを見守り、数値を何度も確認している。そうした丁寧な積み重ねが、ようやく信頼できるデータにつながっているのだと、改めて感じました。PFASに関する規制が年々強化される中、EPA Method 1633Aの重要性は今後ますます高まっていくでしょう。
このメソッドを扱うお客様を支援する立場にある方なら、ぜひ一度ラボでサンプル前処理の工程を実際に体験してみてください。たとえ数日でも、自分の手で触れてみることで、サポートの質が大きく変わることに気づくでしょう。

